早押し戦隊 クイズレンジャー

第7話「十人十色 2」

高校生の男子が3人、ここにいる。
このうちの1人でも、赤が好きならなぁ、と恭四郎は思った。
アイボリー色を愛する、恭四郎は思う。
何となく日本には、暖色を「女の子の色」と揶揄する風習がある。
姉のいる男の子の、お下がりのリュックサックが赤くて、それをからかう ような児童が、クラスに1人くらいいたものだ。
(ちなみに恭四郎には姉が3人いるが、家が裕福だったので姉たちのお下がりを 使ったことはない)
だから男で、それも少年の彼らが「好きな色は赤」と言うのは、
勇気がいると思ったのだ。
勇気がいる、と。
しかし、そこは「ファイト」だと社長は考えた。
思わず両の手を、ぐーに握っている。
このあと恭四郎ががっかりするハメになるのは、彼が浅はかだったと言うわけではなく、
単に3人が、不運にも「変わり者」だったからに過ぎない。

「好きな色?僕はね〜、紫!欲求不満のムラサキ〜!
そう忍が、くるくる回りながら言うので、横の糸目な少年が、
「欲求不満のって・・・それは全国の紫色ファンに悪いだろ。」
と注意する。ツッコミとして明確なのかどうか、微妙だ。
とりあえず、黒髪の少年:忍の好きな色はだということで。
黙ってニコニコしている白い髪の少年、英世にも同じことを聞いてみる。

「僕ですか?うーん、水色かなぁ・・・白も好きです。」
紫もいいよね、と英世が続けると、忍は嬉しそうに「でしょ!?」と言う。
最後に、一番背の大きい少年に好きな色を尋ねると、太陽はハッキリと言った。

「モスグリーン。」

苔緑色って・・・。
素直にグリーンでいいじゃん・・・。」
後半、そう小声でつぶやき、思わず恭四郎は、うなだれた。
何故だか、とてもガッカリした。
それは、ここに指導者な色:赤を好む人間がいなかったことよりも、
自分が、今の若い世代と「話が合わない」ことを実感した、
すなわち己が年を取った事に気づいたのが、ショックなのだ。

自分が17、8の頃には、
好きな色はと聞かれて、「モスグリーン」と大声で答えることは出来なかった。
あぁ、出来なかったとも。
苔緑色などという、渋い色が好みなのは太陽少年の特質であって、
本来は、「世の時間の流れ」などは関係ないのだが。
社長はショックなので、そのことに気がついていない。

ひとり不幸そうな顔をしている恭四郎に向かって、忍が声をかけた。
「恭四郎サ〜ン。どうせだからさっきのオニイサン、何だっけ・・・
あ、三千院泉?その、泉サンにも好きな色、聞いてみたら?」
言われて恭四郎は、ヨロヨロとしながら、携帯電話を出して彼に電話をかける。
数回コールの後ヴァイオリニストの青年は出て、奇妙な質問をする友人に、 受話器の向こうで怪訝そうな顔をしながらも、素直に答えを告げた。
それは英語だったが、泉は実にナチュラルな発声で、その単語を言う。

「lavender(ラヴェンダー)。」

と。恭四郎は演劇に詳しくないが、ぼんやりと、
「ブルータス、お前もか」(※)という台詞が浮かんだ。
※「ジュリアス・シーザー」:シェイクスピア
世の中は、紫色が流行っているようだ。
(それは、恭四郎の思い込みだったが)

ええい、結構じゃないか。高貴な色、ムラサキ。
アカムラサキ・アオムラサキ・キムラサキ。
木村沙希きむらさき?誰だそれは。俺は知らないぞ。
恭四郎は混乱しているようだ。
例え、そんな名前の女優がいたとしても、恭四郎の頭のデータベースに入っているわけが無い。
彼が知っているのは、二流芸能人の芹沢ハルカくらいである。

ともかく恭四郎は、数回質問をしただけなのに、随分疲れた。
もう、他人に期待するのは、やめた。
そういえば、「あいつ」はデートの時に、赤いハンドバッグを持っていることがある。
もしかして、赤色が好きなのかもしれない。
恋人の好きカラーだと思えば、愛しいじゃないか、レッド。
そう恭四郎は考えることにして、再び拳を握り締めた。
クルミでも持たせれば、かち割る勢いであった。


                    続く>>>


「創  作」