ナイトハンター×クイズレンジャー コラボ「きらぼし」
その7(お題:一酸化炭素)



泉は言った。
「貴女のような腕の女性を知らなかったなんて、僕としたことが 情報収集不足だったな。」
それから言葉の通じない相手に向かって、彼は誉め倒していた。
最初、恭四郎は何か裏があるのではと思ったが、そのうち、 単に、言いたいから言っているのだと理解した。
泉は、割と正直な人間だ。ストレートすぎるという意見もある。

誉めたいだけ誉めたあと、泉は実にプレイボーイ風な言葉を口にした。
「・・・その、楽曲を必要としている、病気?の彼は、
貴女の魅力に気づかないとは、随分不躾なものだ。」

聞いていた恭四郎は、背中のあたりがむずがゆくなってきた。
泉のおかしい話は、ここで一旦打ち切られることになる。
彼の上着のポケットに入っているアラームが、鳴ったから。
「あぁ、合奏に協力してあげたかったけれど、時間のようだ。」
そして彼は、似た箱の中身を確認してから、ヴァイオリンケースの方を、 テーブルの上に置いた。
あげるから使って、と言って。

「幾らなのかなぁ?」と忍は、隣の友につぶやいた。
太陽は「さぁな。」と興味なさそうに答えた。
耳だけは良い泉はにっこり笑って、学生達に答えを与えた。
「これは、練習用の楽器だから安いよ。いち。」
いちって何だ。100万か?もしかして1000万かも、と社長は思っていたが、 皆が驚く真実が伝えられる。
「1万円だよ、安いでしょう?」
確かにそれは安い。初心者の練習用のヴァイオリンの値段だ。
何故そんな安いヴァイオリンを持っているのだろうと思ったが、その答えは、 泉からは与えられなかった。

「とにかく僕は帰るから。これ以上待たせると、運転手がうるさくてね。
時間を守らないと、僕の車を密閉して中で七輪を焚きまくって、 じさつしてやるーって言うから。」
バイバイと子供のように挨拶をして、ヴァイオリニストは出て行った。
脅しにしても、随分古風な方法だ。
彼の車はオープンカーだから、その行為は実際できないんじゃ、と忍は思っていた。


ともかくヴァイオリンと、サラリーマンとその秘書、少年2人と異邦人2人が残された。
先ほどクラウスが口にした、楽器の名前を繰り返してみる。
フルート、ヴァイオリン、ハンマークラヴィーア
フルートはともかく、ハンマー・・・とは?と恭四郎は考えた。
ふいに、ぽつりと太陽はつぶやく。
「ハンマークラヴィーアは、ピアノの事だ。」

物知りだな。
あぁ、そういえば前に、彼はピアノが好きだとか言っていたな、と 恭四郎は思い出した。
謎は解けた。それは良いことだ。
しかし、ハンマークラヴィーアがピアノである以上、彼女(と横の少年)が、 楽器を持って帰れないことは明白となった。
録音か、とあごに手をやって考える。

■続く■


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