ルビー 1


(いつから、だっただろう。
何故、なんだろう。
もう、分からなくなってしまった。

でも、別にいいじゃないか、と思う。
ひとを愛するのに、訳なんて必要あるかな?
僕は彼が好きだ。それはまぎれもない事実で。)


***


ふぁあああああ・・・・・・・。

大きなあくびをして、ねずみ色の髪の青年は目を覚ました。
両手を伸ばしてから、少し頭を振る。

彼は、名前をグラディウスという。瞳は、髪と同じ ねずみ色で、身長が205センチもある、大柄な人物だ。
彼は、はーと息を1つついてから、「横」の人物の頭を ポンポンと叩いて、言った。

「カルマ、もう起きなよ。」

叩かれた方は、依然として、ぐーと寝ている。

今、眠っている方は名前をカルマといい、黒い髪に 赤い瞳の青年だ。身長は170センチ程度。
彼は普段、薄くしか眠れない体質なので、逆に、眠って しまうと、なかなか起きない。
グラディウスはそれが分かっているから、眠らせておいて あげたいとも思うのだが、今日は「用」があるから 起きないわけには、いかないのだ。
グラディウスは、今度は顔を相手に近づけて、耳元で言った。

「起きないと、襲うぞ〜?」

そうやっておどけてみたのだが、相変わらず相手は寝ていた。


彼らは、子供ではない。両方とも、22歳にもなる立派な大人だ。
それなのに、2人一緒のベッドで寝ているわけだ。
しかし、彼らは恋人ではなかった。

関係と言えば、友人だろう。
そして仲間、戦友。
一緒に寝起きしていることをいえば、「ルームメイト」か。

グラディウスはカルマの友だった。
そしてもちろん、カルマはグラディウスの友で。
性格は正反対の2人で、共通点などあまりない2人だったが、 彼らは仲が良かった。

安心しきった様子で、すやすや眠るカルマの様子を 見て、ねずみ色の髪の男は思った。

(良かった、眠れているみたい。)


***


ふたりは「冒険者」である。
クラス(職業)といえば、カルマは攻撃魔法の使える魔法剣士 「SAMURAI」で、グラディウスは「戦士」。
ただ、カルマは元々神官だったので、回復魔法も使える。
神官だった彼が何故、剣をふるう職になったかというと、
・・・・それはおいおい話していこう。

黒い髪の青年、カルマは、食べることが好きである。
冒険者というのは、たいていろくな食事をしていない。
もちろん摂れないこともあるし、冒険者ギルドにあるのは 酒場に毛のはえたようなレストランだけだった。
それが、カルマは気にいらないらしい。

「食べないで、戦えという方が無理だと思うのだがな?」
そういう、彼。その言葉を聞いて、グラディウスは そうだね、と言って、笑う。

人間の3大欲求は、食・睡・色だが、 カルマは、健康な成人男子だというのに、色欲がなかった。
色欲が薄いのではなく、欠落しているのだ。
彼は「好き」という感情が分からない。ひとに恋したことが ない。
愛されたいとも、思わない。

だから天は、代わりなのか、大きな「食欲」を彼に与えた。
なのでカルマは、四六時中そういうことを考えている。
食べ盛りの子供のようだ。
そんな様子の彼を見て、グラディウスはくすくす笑う。


ねずみ色の髪の青年、グラディウスは「剣士」である。
純粋な意味での「剣士」だ。剣を生業とし、剣とともに 生きている。
彼は大きな体格に似合わず、随分「かわいらしい」口調で 話す。以前からそうだったわけではない。カルマと出会ってから、 そうなってしまったのだ。

グラディウスが10代の頃は、すさんだ目をして、他人を 寄せ付けない様子だった。
何事にも興味が持てず、ただ、独りでいた。
そんな時、奇妙な人物に会ったのだ。それがカルマ。

彼の影響で、グラディウスは「毒気が抜かれた」というか、 子供がえりをしてしまった。
だから自分のことを僕といい、 友人の様子にけらけら笑ったりする。

実年齢は20を越えていても、ここにいるのは「こども2人」。
ときに悲しい目をする黒い髪のこども と、 そんな相手の様子を見て、同じように瞳を曇らせる、ねずみ色の 髪のこども。


***


探索のために、複数でチームを組むことを、パーティという。
この冒険者ギルドでは、6人が1パーティの人数の常識だった。
それを分かっていて、カルマとグラディウスは、今までたった2人で パーティを組んでいた。
回復魔法は一方が使えたし、2人でも大抵の敵には負けない、 技量が彼らには、あったから。
しかし一度敗走し、バランスの悪さを改めて考えさせられる。

2人でいたのは、2人ともがあまり社交的でなく、 他に仲間を見つけようとしなかったことが第一の理由で、 もう1つは、人数が少ない方が分け前が多いという、金銭的な 理由だった。

その日を暮らせる金があればいいグラディウスはともかく、 カルマは金を貯めたかったのだ。本人いわく理由は、
「教会を建てる」
それを聞いた時グラディウスは、彼はやはり「根」が神官なのだ、と 強く感じた。

ひとを導き、癒す立場の神官が、血みどろの世界で剣を振る。
カルマの剣さばきは、悪くなかった。むしろ、素晴らしいと言えた。
だが、グラディウスは思ったのだ。「彼を元の世界に返さなくては」と。

(傷ついた、ひと。
僕が精いっぱい、癒してあげるから。)

***

グラディウスが朝考えていた「用」というのは、新しく パーティを組む相手と顔を合わせることで、 一般常識から考えても、遅れるわけにはいかなかった。
どうにか用意をして、待ち合わせ場所につく。

6人体制のパーティというのは、剣や斧で直接攻撃をする 人間が3人、後衛で、魔法で彼らを支援するのが3人、と、 そういった形式で構成されている。
なので後衛職・・・例えば魔術師など、が、新しくパーティに 加わるのはたやすい。
逆に戦士が加わるのは、難しい。
カルマとグラディウスは、2人とも直接攻撃の「前衛職」だから、 そんな彼らが既定の「4人」パーティに加わることが出来たのは、 本当に幸運と言えよう。

「小人」が3人と、長身の青年・・・種族はどうやらエルフ・・・が 1人の、4人パーティがそこにはいた。
エルフの青年が、グラディウスに向かって言った。

「彼がその・・・、貴方の相方ですか?」

パーティに加わる手続きをふんだのはグラディウスなので、 カルマは、どんな人間が相手なのか、知らなかったのだ。 そしてグラディウスも、仲介のエルフの男性にしか会ったことが なかったので、他に小人が3人いることに驚いた。

小人、と言っているが、彼らもれっきとした「ひと」である。
2人は今まで、あまり人間以外の種族と接していなかったので、 よく知らなかったが、彼らもギルドでは一般的な種族だ。
リーダー格であるらしい、エルフの男性が、カルマとグラディウスに 3人を紹介した。

「メンバーを紹介しますね。
一番右にいる、色の黒い男が、ダス。ドワーフの戦士。
真中の、茶色い巻き毛の男が、グラム・バルナック。ホビットの盗賊。
最後に、左側にいる白いヒゲの男が、グリーン。ノームの僧侶。
・・・・私はリューク・サヴァイ・リュークト。エルフの司教です。」

どうも、と2人は間抜けな挨拶をした。
しばらくしてから、カルマは気がついて言う。
「あ、まだこっちの自己紹介をしてなかったな。
わたしはカルマ。クラスは・・・。」

全部言い終わらないうちに、ドワーフのダスが口を挟む。
「知ってるよ、あんた‘闘神‘だろ。」

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