ルビー  2


闘神。闘いの神。
それは、黒い髪の剣士カルマにつけられた、異名だった。

レベル、という数値でひとを測るとしたら、
グラディウスはこのギルドで、中堅どころの、レベル12。
ダス・バルナック・グリーン・リュークの4人は、すでに 「ベテラン」の域である、レベル25あたり。
それに対しカルマは、レベルが群を抜いていた。100以上 なのだ。

だからカルマは他の冒険者にも、名が知られていた。
敵からの直接攻撃を受ける前衛職なのに、防具もつけず、 身につけているのは普通の服のみ。
細身の剣を、鋭く振り下ろす、疾風のような剣さばき。
髪や瞳の色が多様化しているこの地域ですら、珍しいといわれる 赤い瞳。
いつからか彼を「闘神」と呼ぶ人間がいた。
その異名を聞いて、本人は、「名前がひとり歩きしているな」と、 カラ笑いをするのみだったが。

ドワーフの彼にそう言われて、カルマはやはり、ははと 困ったような笑みを浮かべるだけだった。
代わりにグラディウスが、そのカルマを見つめて、瞳を 曇らせている。
ダスの発言を聞いて、今度はホビットのバルナックが言った。
「あぁ!アンタ、あの闘神なのか。ほー。」
「おお、それはすごい。噂の闘神サマだとは。」
と、ノームのグリーンも言う。

カルマは、ただ困っていた。するとエルフの司教の彼が言う。
「ダス、バル、グリーン、からかうのはよせ。
・・・・・話を続けましょう。」

どうやらこのエルフの男は、カルマとグラディウスを気遣って、 言葉を丁寧にしているらしい。落ちついてみえるが、何歳くらい なのだろう、と2人は思った。

「報酬は、基本的に6等分ということで。」
と、リュークは事務的な話をしだした。
そういった話をしばらくしてから、またもダスが急に言う。

「あ、アンタらも俺たちのリーダーの指示に従えよ?
勝手な行動は許さねぇからな。」

あぁ、分かっている、とカルマは答える。
2人の時は、それぞれが無茶をせずに、敵に向かっていけば よかったが、6人ともなると、まさにチームプレイだ。
パーティには、必ずリーダーが存在する。
リーダーの男(女である可能性も有るが)が、緊急時の判断や 今後の予定、身近なところでは戦闘時の作戦をたてる。
「4人」のリーダーは、最初から話をすすめているエルフの リュークであるらしい。

珍しい、とカルマは思った。

彼は6人パーティを組んだことがなかったが、常識を知っていた。
それは、直接攻撃を行う前衛職の、リーダーがほとんどで あること。
頭の回転がはやそうな、色の浅黒いそのエルフを、カルマは眺めた。

***

最初は、どうしてもぎこちなくなってしまうが、
話していくうちに、6人はだんだんと和んでいった。

話ばっかりも何だから、と、その足で早速、探索に出る。

今までこの4人は、4人なのだから無理もないが・・・
盗賊と僧侶という、本来「後衛職」の2人が「前」に出ていた。
司教のリュークだけが、後ろで魔法による 支援をしていた。
ちなみに司教というのは、レベルアップは遅いが、 攻撃魔法と回復魔法を両方習得できる職業である。
なので、その癖で、小人3人はカルマとグラディウスを 置いて、さっさと先方を歩いていってしまうのだ。

おい、とエルフのリュークが声をかけるが、その表情は 笑っている。
2人は黙って、そのエルフの後をついていった。

小人3人は、リーダーの彼が怒らないところを見ると、 いつもそうなのだろうが、雑談をしながらあっちを向いたり こっちを向いたり、くるくる回りながら、前を歩いている。
そのうち、話題が「女性の好み」になったようだ。

ドワーフのダスが言う。
「俺はやっぱりドワーフの女がいいな、気立てが良いし。」
するとホビットのバルナック、
「あんなヒゲ生えた女たちの、どこがいいんだか。」
ノームのグリーン、
「もうちょっと一般的な話をせぇよ。種族だけでいったら お互い譲らんに決まっとろうが。」
「じゃあ俺は、体つきのイイ女ー。」とダス。
「うわ、そのまんま、欲望に忠実なやつ〜!」とバルナック。
「バルナックだって、好きなんじゃろうが。」とグリーン。

なんというか、不毛な話し合いである。しかしそれを、
「・・・・いつものことなんですよ。」
とエルフのリュークは振りかえって、2人に告げた。
「昔から一緒にいるものでね、どうも、子供っぽい部分が抜けなくて。」
と、彼は続ける。
幾つなんですか?とグラディウスが丁寧に聞くと、エルフは 答えた。
「私たちはみな、26歳です。」

「リュークは〜〜?」

そういう声が、前方から聞こえた。バルナックが発した 声だった。
何の話題だ?とリュークが、少し大きな声で前の3人に 尋ねると、3人ともが答えた。
「「「好きな女のタイプ〜!」」」

「はは、じゃあ一応、妻ということにしておくよ!」
とエルフは答え、ちっ、つまんねぇの〜!とバルナックはぼやいていた。
このパーティでは、エルフの彼だけが唯一の妻帯者らしい。

「アンタらは〜!?」

という声が、またした。今度はダスが発したものだった。
その言葉から察するに、2人にもタイプを尋ねているの だろうが、反応がなかったので、グリーンが言う。

「そこの美人さんは?と聞いておるのじゃが。」

とりあえず、小人たち3人から見て手前にいる、カルマに まずは目標を定めたらしい。
美人さんは?と言われても、当人は全く反応を示さないので、 グラディウスはご丁寧にも、相手の背中をちょっと押して、 君だよ、とつぶやいて教えた。

「あ、わたしに聞いていたのか?・・・・・・何を?」とカルマ。
「「「だから、女の好み!」」」と3人は唱える。
するとカルマは即答した。
「いや、わたしは女性に興味はないから。」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

ダスもバルナックもグリーンも、近くにいるリュークさえ、 その瞳を見開いて、驚きの表情で、カルマを見つめている。
黒髪の青年本人は、何でそんな顔をして見つめられるのか、 分かっていなかった。
しばらくしてから、後ろにいたグラディウスが、その場の 雰囲気がまずいことに気づき、慌てて言った。

「あ、いやいやいや、そういう意味じゃないんだよ!!
彼は恋愛に興味がなくて・・・・!」

その言葉を聞いて、皆は表情を元に戻したが、少ししてから ホビットのバルナックが、両手を頭の後ろで組んで、言う。

「あぁ、なるほどな。分かったけど・・・・
何でアンタが、それを説明するんだ?」


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