SCC 〜Stone Cold Crazy〜

”まったく、おかしな奴らさ”

***

「俺たちがさー、もし捕まったら、誰が一番重罪だと思うー?」

と、褐色の髪に緑色の瞳を持つ少年は言った。
すると白い髪に黒い目の青年は、答える。
「そうですねぇ、リサじゃないでしょうか。」

「え?!私?」
とリサと呼ばれた女性は驚いて言う。彼女は、こげ茶色の髪に青い目だ。
彼女は続ける。
「どうして私なの?ハーディでしょ?」

そうかなぁー、と少年は答えた。若い彼が、ハーディという名であるようだ。
褐色の髪の少年が続ける。
「俺は、アレックスだと思うけどなー。」

するとアレックスという名の、白い髪の青年は答えるのだ。
「違いますよ。
ひとは、‘ひと‘しか裁けませんが、私は‘ひと‘じゃないですからね。」
そう言って、カラカラ笑った。

***

褐色の髪に緑色の目の少年が、この世に生まれたことが、
そもそもの始まりだったと言って、良い。
もちろん彼より年上の2人は、もうその時点で生まれているのだが、
やはりきっかけは、ハーディなのだ。

18年前、カルマ・ハーディは、ごく普通の家庭に生まれた。
(ちなみに姓の方が先にくる地域なので、ハーディの方が「名」だ。)
その時、占い師が言ったのだ、「この子は、20歳前に死ぬでしょう」と。
体が、小さかったからかもしれない。今もあまり大きくはないのだが。
ハーディの親は、本人に、そのような予言をされたことを、教えた。
するとハーディは思ったのだ。
「長生きしないなら、早めに好きなことやっておかなくちゃ、損だなー。」と。

で、ハーディは「好きなこと」をやった。「才能」があったと言ってよい。
古臭い言葉で言えば、「悪」になったのだ。

山賊などの「ゴロツキ」をねじ伏せて、その頭になってみたり。
財宝があると聞いて、未踏の場所に踏み込んだり。
「城」から物を盗んだこともある。

彼にとって、全部が「好きなことをやった」だけで、罪悪感はない。
ちなみに、最大の罪だと言われる「殺人」に関して言えば、
ハーディは、ひとを殺してはいない。「死んでいるものはいる」が。
ハーディの頭の中は非常に単純なので、
いなくなった人間の名前まで、覚えておくことはできないようだ。
彼にとって重要なのは、「楽しい」か「楽しくない」かの2つ。

何しろ、彼には時間がないのである。

周りの皆は、彼を見て一様に同じことを思う。
「その予言が、間違ってたんじゃないか」と。
そういう人間に、ハーディは決まってこう答えるのだ。
「じゃあ普通に生きていて、ホントに早く死んだらどうするんだよー?」

だからハーディは、自分の生き方に満足しているようだ。
以上が、褐色の髪に緑色の瞳の少年の話。


次に、アレックスと呼ばれる青年の話だが、

彼は、自分を「ひと」だと思っていない。
妖精の類の血が混じっているわけではなく、彼も正真正銘の人間だ。
ただ、自分をひとだと思っていないのである。

「じゃあ、何なんだよー。」とハーディあたりは聞くが、
すると、アレックスは答える。
「そうですね、‘魔‘でしょうか。」

・・・それは至極妥当な表現かもしれない。

アレクサンダー・デフォーが生まれたとき、その稀少な容姿に周りの人間は驚き、 「この子には特殊な力が備わっている」と言われた。
それは「正解」だった。彼には魔力があった。
その彼を、周りの人間は避けることなく、「神童」と敬った。

アレックスが7歳くらいの時、街に突如化け物(竜)が現れた。
それを白い髪の少年は、封印した。名に恥じない「仕事」をしたということか。
竜との戦いで少年は右腕を失ってしまったが、「自分」をあまり重要視してない 彼は、別に大したことではないと思っていた。

20歳近くになったころ、「城」に神官として徴収されたので、何の疑問も持たずに城に行った。
そこで彼は、一般的に言えば「退屈」である時を過ごす。アレックスに不満は無かったが。

彼が27歳の頃、劇的な出会いをする。
早い話が、恋をしたのだ。
相手の名前はマチルダ・ストラスフォード。彼女はその時18歳。
初恋にしては遅いほうだが、この時初めてアレックスは、彼女が好きだという「自分」が好きになれた。
「私も、ひとだったのですね。」と彼は思った。

だが彼女は19歳の時、不慮の事故で死んでしまう。
するとアレックスは、本人いわく「おかしくなって」しまって、
この力をどうしよう、と思った。
昔は、己のこの力は「皆のため」あるのだと思っていたのだが、
彼女に会ってから、「自分は自分で、この力もきっと、 私と彼女が幸せになるためにあるのだ」と、思い直した。
だから、アレックスの魔力は今、何の為にあるのか分からない。

ひとを愛して、変わった力のある自分も「ひと」だと思えたが、
その相手も、無残に奪われた。
何も愛しいと思わないし、悲しいとも、寂しいとも思わない。
目の前で人が死んでも、鎮魂の詩を唱えようともしない自分は、神官でもない。
ただあるのは、強すぎる魔力。

アレックスは薄く笑って、「私は‘魔‘」という方法を、覚えた。
自分で、「おかしくなっているんです」ということが出来る。
「捕まったら、どうなるんでしょうねぇ。」と言う。

・・・ハーディの冗談に笑うことが出来るのは、進歩なのかもしれない。


最後に、メリッサ・ストラスフォードの話題。

彼女は、こう言っては何だが、3人の中で唯一、立場がしっかりしている。
それゆえ、アレックスなどは「リサが一番重罪」と言うのだが。
彼女は若い女性だが、聖騎士なのだ。
聖騎士というのは、騎士より上の、選ばれた騎士である。

その彼女が、何故ここにいるのだろう。

リサは16歳で騎士として城に上がった。彼女には3歳年下の妹がいて、 リサが20歳の時、妹のマチルダは小間使いとして城にやってくる。
真面目なリサはそのうち、聖騎士という地位を得るのだが、22歳の時、 大切なものも失う。妹が死んだのだ。

それが、リサには事情がよく説明されなかったので、いったいどういう理由で 妹が永遠の眠りについたのか、彼女は知らないのだ。
そこでリサは、何かおかしいことに気づく。
この国は、当然のように神官制や騎士制がしかれているが、
これは一体、何の為なのかと。

こんなものが、本当に必要なのかと彼女は思い始めた。

真実を知るために、「調べたかった」が、城にいたのでは、全く情報がつかめない。
だからリサは城を出た。無断で、仲間に何も言わず。
真面目な、聖騎士の小隊長の美しい女性は、”壊れてしまった”。

リサは旅の間、聖騎士の証である「銀の鳥の勲章」を、鎖にかけて 逆さにして、首から下げている。
それは、あえて自分が騎士である身であることを忘れない為の戒めで、
そして同時に、国にはむかう犯罪人であるという「誇り」で。


                      続 く


「創 作」