SCC 10

スカーレットキングダムの女王、クイーンスカーレットの夫は、すでに 亡くなっているが、彼女には息子が1人いる。
だが、女王は、その子を愛してはいなかった。

「・・・お出かけですか・・・。」

スカーレットキングダムの第一王子、カイルは、ぽつりとつぶやいた。
王子といっても、彼はもう30歳を超えている。
その体は細く、猫背で、色白い顔をした彼は、実の母親と、あまり似ていない。
出かけるのかと聞かれても、クイーンスカーレットは返事もせず、息子の方を 一瞥してから、カツカツとその部屋を出ていくだけ。
母が息子を愛さないように、彼も女王が好きではなかった。
彼は思う。

(貴女は醜い。どんなに若作りをしていても、醜い。
それは内面が、ひどく美しくないから。
そんなことをしても、無駄ですよ・・・。)

自分が彼女から愛されないのは、自分が彼女の好む美しい姿ではないからだ、 と、カイルは分かっている。
だから、女王がしている事が間違っていることにも、気づいている。

(美しい者ばかりをはべらせて、そうでない者を排除する。
それは指導者として、間違っていますよ。)

だが、今、女王をとめられるものは誰もいないから。
だから、おかしなこの国は、変わることはなかった。

***

「ここはやっぱ、正攻法ってやつだろー。」

そうハーディは告げて、アレックスの方を指す。
指されてアレックスは、「正攻法」とは?と言い、それに対し少年は答えた。

「”奇策などを使わずに、堂々と攻撃すること”」
「誰も、言葉の意味を尋ねているわけではありません!」

アレックスは珍しく、声を上げて言った。
その様子を見てリサは、ふふと微笑む。
可笑しかったわけではなく、アレックスが”人間っぽい”反応を 示したのが嬉しかったので、笑ったのだ。

「どういうことなの?」とリサも尋ねた。
ハーディは説明する。
「女王はさー、”美しいもの好き”なんだろー?
だから、アレックスを”飾ろう”って、そう言ってるの〜。」

言われてアレックスは目をぱちぱちさせてから、は?と、また尋ねた。
リサは彼の言ったことが分かったので、アレックスに1歩近づいて、言う。
「アレックス、貴方は自分では気づいてないかもしれないけど、 かなり綺麗な男なの。
だから、身だしなみを整えて、クイーンスカーレットに”気に入られよう”って 筋書き。」

分かる?と彼女は続けた。それを聞いたアレックスは、意味は分かったようだが、 眉をひそめて、2人に尋ねるのだ。
「・・・それは、私でなければならないのですか?」

アレックスが適任に決まってるじゃ〜ん、とハーディ。
そうね、ホホホとわざとらしく笑うリサ。
アレックスの疑問通り、多分この作戦は、ハーディやリサでも不可能ではない ように思われる。
だが、作案者のハーディは、リサよりもアレックスがいいと思っているし、
リサは正直言って自分がやるのは嫌だったので、そう言うのだ。

まぁ、いいですけどね・・・と、アレックスはつぶやいた。
彼は、感情というものをほとんど失っているので、
今回のことは、なんとなく面倒くさいと思ったから避けたかっただけで、 別に怒ったとか、悲しかったとかいうわけではない。

未来、彼が感情的な理由で断ることが出来たなら、それは随分な進歩だろうと、 騎士の女性は思う。
じゃあ決まりだなーとハーディは言って、手を振り上げて2人に告げる。

「大まかに予定を説明するぞー。

アレックスを経由して、俺たちは女王と仲良くなってー。
布は譲り受けることは出来ないだろうからー、やっぱ盗むことになるだろー。
とりあえず、どれだけ仲良くなってー、城の内部を知れるかが、ポイントだなー。
逃走に面倒くさくなるから、ひとの生き死にが関係するような行動はー、 今回はナシの方向でー。」

了解、とリサとアレックスは答えた。


                       続  く


「創  作」