SCC 12

彼は、子供のハーディに、席をはずしてくれないかと、言った。
だからといって、ここで、「子供に見せられないようなこと」をされても、困る。

困るんだけど・・・とリサは思い、いまだ自分にくっついている アレックスに向かって、言った。
「あの・・・アレックス、離れてよ・・・。」

白い髪の青年は、彼女の胸に顔をうずめて、返事すらしない。
元より禁欲的なイメージのあるアレックスは、こういう状況にあってもあまり ”いやらしい”という印象は受けないが、それにしてもだ。

恋人同士でもない成人男女2人が抱きしめあっていて、
それを女性の方が「離れて」と言っているのだから、男性の方は離れるべき なのである、常識的に。


何度もお願いしているのに、アレックスは全く自分の身から離れようとしない。
リサはため息をついて、最後には彼の背中をポンポンと叩いて、まるで母親が子供を あやすような口調で、言った。

「どうしたのかなぁ、アレックス〜?」

何か嫌なことでもあったのかなぁ?とリサは続けて聞いたが、その理由に彼女は 思いあたるふしがある。

・・・・女王に会ったからだ、と。

ベタベタ触られました、とアレックスは言っていた。
何気ない言葉のように聞こえたが、彼にとってはよほどのストレスだったのだろう。
それを、「慰めてください」と。
彼女と似ていないけれど、今だけは彼女の代わりに、と。

身近な女性に、遠くにいってしまった自分の恋人の、影を重ねた。


リサはまた、相手の背中をポンポンと叩いて、つぶやいた。
「そうか・・・大変だったんだね、アレックス。
・・・今日だけは、この胸を貸すから。だから・・・安心していいよ。」

ハーディには見せられない姿だものね、と騎士の女性は言って、自らも彼の背中に 腕を回した。


***


「話、終わったー?」
とハーディが時を見計らって帰ってきたころ、並んで立つ2人のうち、何故か アレックスの顔が赤い。

「??どうしたのー。何か顔赤いぞー、アレックスー。」

そう言われて、「な、何でもありません。」と答える青年は、ひどく”普通”に見えた。
変わってきている、そう、確実に。
人間味の薄かった白い髪の男は、確実に人間らしさを取り戻してきている。
それもこれも皆、ハーディのおかげよね、とリサは思った。

「俺、考えてたんだけどさー。」
ハーディは両手を頭の後ろにやって、2人に告げた。

「アレックス、嫌だったんだろー?」
ええ、と破戒僧は即答した。
「なら、アレックスにだけこういうコト頼むの、酷だよなー。」
そうね、とリサ。
「じゃあいっそのことー、俺もリサも同じ作戦で攻めてみるー?」

俺、あんまり見目よくないけどなー、とハーディはつぶやく。
リサは一瞬、言葉に詰まってしまった。そんな彼女を見て、褐色の髪の少年は言う。
「何だよリサ、その顔はー。
女王はー、ありがたいことに両刀らしいからさー。
ここは全員”色仕掛け”でいこうって言ってるんだけど、分からなかったかー?」

分からなかったわけではない。
ただ、その作戦に賛成する気にならなかっただけで。
しかしハーディは、パーティの仲間の意見を聞く気はないらしい。
これは決定なのだ。彼の言う通り、”全員で色仕掛け”なのである。

ハハ、と乾いた笑いを浮かべてからリサは、
「ハーディ、貴方も割と可愛いわよ。」と言うしかなかった。


                     続  く


「創  作」