SCC 13

例えとして、
わざと花瓶を割った人物と、壊す気はなかったがうっかり花瓶を割ってしまった人物、がいたとしたら、 一般的に、前者の方が罪深いと言われる。
だから、物事を”やろうと思って”したかどうかというのは、重要な問題だと言える。

ハーディを見て、2人は感じたのだ。
やはり、「悪になろう」として、なった彼は、自分達とは格が違うと。
彼は、頭の固い人間の言い方を借りれば、重罪人だと。

***

全員で色仕掛けな〜、と決めて、ハーディは用意をした。
珍しく大人びた服を着て、かかとの高い靴をはいて、身長が高く見えるようにして。
そう、カッコつけて、女王に会ったわけだ。

テレヴィジョンにもよく登場する女王は、とかく人に会うのが好きだ。
きっと、新しい「お気に入り」を見つけるのが、目的なのだろうが。
彼女に会って開口一番、ハーディが口にした言葉は、

「おお、噂にたがわぬ、美しい女性。」

”はじめまして、クイーンスカーレット。私はカルマ・ハーディ。お目にかかれて光栄です。”
スラスラと、舞台芸人のように台詞を言ってのける、彼。
リサは、目を見張っていた。
いつもとは、全然違った立ち振る舞いで。
自分達は女王をだまそうとしているのだから、あれくらいするのが当然なのかもしれないが。
それにしても、ハーディにあんな才能があるとは驚いた。
ハーディは続けて何かをしゃべっている。内容までは、彼女は聞き取れなかった。

彼女たち(黙っているが、隣にアレックスもいるのだ)の近くに、服装は立派だが、どこか地味な 印象を受ける、くすんだ金髪の青年が、壁にもたれかかっていた。
その彼の方に視線を移すと、相手の方がリサに声をかけてきた。

「・・・・貴方がたは、あの男性のお知り合いですか。
ようこそ・・・。ゆっくりしていってください。
私は、カイル。・・・・一応、この国の王子です・・・・。」

王子カイルはそう言って、会釈をする。リサとアレックスも頭を下げた。
派手な、あの女王に対して、その息子は、何とも地味だ。
彼は自分のことを、”一応”王子だと、告げた。その言葉の真意は何だろうと、リサは思う。

カイルは、チラとアレックスの方に視線を移してから、
「あぁ、貴方は、この前もいらっしゃいましたね・・・・。」
と、つぶやいた。それから腕を組んで、自分の母親の方を眺めてから、ひとつ舌打ちをする。
隠してないであろうその行動を、2人も奇妙に思った。

「・・・スイマセン・・・。」

舌打ちしたことを責められたように、カイルは2人に頭を下げる。
一般人が、女王に対してそのような行動を取ったら、どれくらいの罰になるのか、リサたちは 知らなかったが、カイルの行動は明らかに、「失礼」である。
彼が王子だから、彼を罰さないと言ってよいだろう。
女王のやっていることは、それは褒められたことではないだろうが、そんなに蔑視しなくても いいのでは、とリサは思った。

「・・・・リサ。」

リサの後ろから白い髪の破戒僧が、彼女に小さく声をかけるので、リサは振り返った。
するとアレックスは声のトーンを落として、小さな声で、彼女に耳打ちをする。
「”彼”には、気をつけた方がいい。
以前会った時も思いましたが、彼は、何か深いものを隠し持っている。」

ただの、ぼやっとした青年ではないということだ。
くすんだ金髪の王子は、相変わらず無言で、女王とその来客のハーディを眺めていた。

***

「んふふー。」
18歳の極悪人は、上機嫌だ。
遠くからではよく分からなかったが、ハーディはうまくやったようだ。
城を顔パスで通れるような、お友達にしてもらったそうで。
第一歩は成功だなー、と少年はつぶやく。

「そういえばー、あの布、見せてもらったんだけどさー。」

そうだ、最終目的の「若さを保つという布」を調べなくてはならない。
どうもあの布は、やはりマジックアイテムの1つで、そういった魔力が秘められているようだ。
欲しいなー欲しいなー、とハーディは何回も言う。
そういった話を、円陣を組んで話していると(もちろん小声で)、再び後ろから、草をかきわける ガサガサいう音がした。
3人とも振り返ると、予想通りの人物が、また現れた。

「あっはっはっはっはっはっはっは。」

予想通りの高笑い。だからお前は何者だ、と、3人とも思う。
シ=サと名乗る奇妙な男は、今日は銃をかまえてはいなかった。
今日は一体何を言うのだろう、と、テレヴィジョンを見るような気持ちで、3人は彼の方を眺める。

「一体、何を企んでおいでかな?」

そう言う、シ=サ。それはこっちが聞きたい、と誰もが思う。
何を企んでいるのかと聞かれれば、この国のエライひとから、大切な物を盗もうとしているのだが、 シ=サが国の機関につとめているのではないにしても、そんなことは、他人にはバラせない。
それにしても彼は、自分たちをつけているのだろうか?



                     続  く


「創  作」