SCC 14

決戦の日は来た。今日は、まさに「うってつけの日」だ。
ずる賢いハーディが、そんな機会を見逃すはずはなかった。
今日は女王の誕生日。パレードが行われるらしい。
城に通い詰めて、対象を油断させるほど、仲良くもなった。
「トリ」を決めるのは、やはりリーダーのハーディだ。

”レディ、ショールを脱いで、私の用意したドレスを着てくれませんか?”

***

「ハーディは、”何”を演じているつもりなの?」とリサは聞いた。
聞かれた方は、一瞬目を見開いてから、相手の言葉の意味を察して、答えた。
「伊達男ー。」

伊達男だよー、とハーディは言う。
気障な台詞で女性を惑わし、クールにきめる、伊達男。
そんな男性のつもりでいるらしい。
彼がそのように見えないというわけではないが、普段のハーディを知っているリサとしては、 その「無理ぶり」が、少し笑いを誘う。

そういう魅力的な男性になりすまして、
気の多い女王を「虜」にして、彼女の大切なショールを奪う。
欲しいものを手に入れるためなら、人の命すらどうなろうと構わない「ひどい人間」の3人だが、 今回は、こんな平和的な策に出たというわけだ。

もう少し、もう少しだ。
もうすぐこの、余命のない少年は、時間を引き延ばす魔法のショールを手に入れて、
あとの人生を、安心して過ごすことが出来る。
残された自分たちは、目的を失うことになるけれど、
それでもいいでしょう?とリサは笑って、アレックスに問う。
もちろんです、と白い髪の青年。

彼がこれからも明るく笑って過ごせるなら、
途中で”止まって”しまった私たちの人生など、どうでも良いのだから。

***

花と、派手にラッピングされた箱を持って、ハーディは行く。
女王に、プロポーズするらしい。
結婚を申し込むわけではない。女王が結婚すればその夫は王だから、そんな申し出が簡単に 受理されるわけはなく。
ただ、”今日は貴女の誕生日なので、私と一夜の思い出を”と。
・・・考えてみると笑える話だが、彼の作戦はそのようなものである。
親子どころか、祖母と孫ほどの歳が離れている男にそう言われて、彼女は信じるだろうか。
信じ込ませるほどの演技力が、ハーディには有ったのだけど。

パレードが開催されて、女王は皆に手を振っていて。
その様子を、リサとハーディは眺めている。
この国は安定しているので、パレードの最中に暴漢が女王を襲う、等の心配は、あまりしていない ようだ。
ただ、酔っ払いが行列の邪魔をしないように、少しの警備は存在したが。
「うまくやるかしら。」とリサはつぶやく。
「大丈夫でしょう。」とアレックス。

2人は、彼の活躍に期待している。彼は彼自身の手で、未来を手にいれて。
騙されたと気づいて怒り狂う、女王の追っ手を振り払うのが、自分達の役目だと信じている。
2人は同時に、剣を鞘から抜いて、その刃を確認する。
この「手」を、使うことになるのだろうか。また血が流れるか。
たとえそのようになったとしても、全く後悔はしていない。
自分達は(ハーディを含めて)すでに、おかしくなっているのだ。
どこまで壊れていったとしても、もう止める人間は、いなかった。

パレードが終わったあと、真っ先に女王に近づいて、ハーディは彼女の「この後の時間」を予約する ことに成功した。
素敵な夜になることを期待します、と言って、彼女の手にキスをする、ハーディ。
食事をしてから、ホテルに部屋を取るらしい。

脱出の時期を狙っていたリサとアレックスだったが、
ハーディがいると思われる部屋から、大きな音が聞こえたので、慌てて駆けつけることになる。
その音は、まさしく銃声で。
ハーディが銃を撃つとは思えない。彼はそんな武器を持っていない。
聖騎士と破戒僧がその場にたどり着くと(ドアは何故か開いていた)、
胸から血を流して倒れているこの国の女王と、ぼやっと立ち尽くしている褐色の髪の少年がいた。

***

「・・・・・・・!?」

アレックスは、状況が飲み込めなかった。
最悪、女王がハーディの企みを知って、彼に向かって銃を撃ったのかと思った。
自分が結界を張っていない今、銃で撃たれたら、ひとたまりもない。
だから急いでリサと一緒に駆けつけたのだが、撃たれたのは女王のようで。
しかもあの様子では、彼女は死んでいるようである。
まだ命絶えてから時間も経っていないようだし、蘇生魔法をかければ何とか・・・。
そうアレックスが考えていると、ハーディは言った。

「どうしよう・・・。俺、待ってたんだぜ、このひとが来るのを・・・。
それなのに、突然大きな音がしたと思ったら、胸に穴の開いた女王が、
ドアから倒れこんできて・・・。」

彼は、あまりに緊張してか、いつもの口調ですらない。
目の前の状況に呆然として、ただただ、立ち尽くしている。
そんな彼に近づいて、リサは冷静に告げた。
「ハーディ。落ち着いて、見たことを冷静に話して。
私たちは貴方が、考えた作戦を途中で勝手に変えて、女王を殺したなんて、思ってないから。」

残酷な言葉も、すらすら言える。
やはり自分は、国に仕える聖騎士ではない。こんな壊れた聖騎士などいない。
今はただ、この少年を救わなくてはならないと、思っているだけだ。
リサは少年の両頬に手を添えてから、再び言った。
「落ち着いて、ね、ハーディ?」

アレックスは周りを見回す。
普通の、ホテルの1室だ。
まぁ、ベッドが1つしかなくて枕が2つあるから、恋人(ないし夫婦)達の為の 部屋といったところで。
窓がひとつと、ドアがひとつ。
ドアは、自分たちも入ってきたところである。
ハーディの言い分が正しければ、女王は一旦ドアから部屋の外へ出て、廊下で何者かに銃で胸を撃たれ、 その撃った人間がドアを開けて、彼女の体を、向こうに押しやって部屋に入れたのだろう。

アレックスは腕を組む。
犯人は、ハーディに女王殺しの罪をなすりつけたかったのだろう。
彼は女王と一緒に部屋をとっている。以前からアプローチをしていることも、知られているだろうし。
痴話喧嘩の延長戦か、それとも彼女の財産を狙った強盗殺人か。
どっちに取られたとしても、ハーディが疑われるのは明白である。

ふいにアレックスは気づく。そして、聖騎士の女性に言う。
「リサ。・・・・・・・構えてください。」

敵が来る。そう思った。いや、そう察知した。
振り返ると、その手に銃を構えた男が近づいてきた。
シ=サだった。


                     続  く


「創  作」