SCC 15

目元まで下がったヘッドリングをしているその男は、見た目通り、常人ではなかったらしい。
銃をふらふら揺らしながら、3人に向かって歩いてくる。
リサとアレックスは剣を抜いて構えて、丸腰のハーディを覆うように立った。

「はは、美しき友情、と言ったところかな?」

そう、シ=サは笑って言う。アレックスは相手の顔を見つめてから、言った。
「女王を撃ったのは、貴方ですか。」
聞かれて、くすくす笑ってから、シ=サは「あぁ。」と答えた。
「何故そんなことをっ・・・!」 と、リサは叫ぶ。そんな彼女の様子に、シ=サはまた、笑って答える。

「殺したかったからだよ。」

この青年はやはり、どこか神経が切れているようだ。
自分達も同じようなものだが、と破戒僧は思う。
女王を、殺したかったから殺したという、この男。
おそらく彼は、以前から女王の命を狙っていて、
自分達がショールを手に入れる為に女王に近づいているのを見て、いい機会だと思ったのだろう。
ハーディが、最後の締めに出た時に、彼自身も行動を起こし、罪をハーディになすりつける。
とても頭脳的な作戦といえる。
ただ、今この場に帰ってきたのは、彼の失敗だ。

見つけたからには、私は貴方を逃がさない。

そうアレックスは内心つぶやいて、目の前の、濃い色の金髪の男を睨む。
そんな彼の様子に、シ=サはふと笑って、つぶやく。
「”神童”サマは、お怒りのようだなぁ。」
くすくすと、シ=サはまた笑う。それからリサの方に、視線を移した。
「聖騎士サマは、どのようにお考えかな?」

彼は、自分達の正体を知っているらしい。
そんなことはどうでも良かった。別に、隠しているつもりも無かったので。
ただ、たくさんの罪を背負っているとしても、やってもいない女王殺しの罪を、ハーディに なすりつけようとする、彼が許せなかった。
依然、にやにやしているシ=サに向かって、リサは言う。

「貴方、何しに戻ってきたの?!」

自分と、アレックスの腕があれば、ハーディが混乱していて戦えなくても、大抵の敵なら撃退できる。
銃という飛び道具の相手と戦ったことはなかったが、そこは、アレックスが補佐してくれる。
そう、リサは信じている。
とりあえず、目の前のおかしな男を、撃退しなくてはならない。

「何しに来たといえばねぇ・・・・。
まぁ、その子の指紋をこの銃につけて、この場においておこうかと。」
それだけ言ってからシ=サは、くるりと指で銃を回してから、告げた。
「無理心中に見せかけて、その子も殺しておいた方が、いいかなぁ?」

誰に尋ねているのだ、という風な言葉だ。
アレックスは、しまったと思った。
この男の無駄話につきあっていたら、時間がたち過ぎた。
破戒僧は、女王の遺体を眺めみる。
これでは、いくら自分でも、もう蘇生呪文はきかない。
女王を殺したかったという相手の、思うつぼにはまってしまったということだ。
ぎぃ、とアレックスは、珍しく唇をかむ。苛立ちなど、久しぶりに感じた。

「アレックス。」
彼の隣の、厳しい顔をして相手に向かって剣を構えているリサは、ひとつ仲間の名を呼んだ。
聞こえるか聞こえないかの小さな声で、そのまま彼女は、つぶやく。

「あの男は・・・・”彼”かしら。」
「・・・私も、そう思います。」

アレックスも、小さく答えた。
ずっと黙っていたハーディが、やっと自分らしさを取り戻して、武器は持っていないが 彼も敵に向かって構え、金髪のおかしな男に、言う。
「アンタ、ひどい男だなー。
実の母親を、殺したいと思って、事実殺したんだからなー。」

***

女王スカーレットの唯一の子、王子カイル。
それが、謎の男、シ=サの正体である。
彼はくすんだ金髪をしているが、今の髪はカツラか何かなのだろう。
普段、猫背であるから、背を伸ばして、履いているもので身長を伸ばせば、随分印象は変わる。
服を重ね着すれば、細い体の線も目立たない。
正体がばれたと分かっても、シ=サは態度を変えなかった。
相変わらず不遜に笑って、3人を眺めている。
リサとアレックスは、後ろのハーディがいつもの調子を取り戻したので、少し安心した。

ここで、彼に負けてはならない。
それでは自分達の目標は達成されないし、何より、犯していない罪をも被ることになる。
女王殺しの罪は、どれほどのものとなるだろう。
いや、問題はそれ以外にある。

女王を、母親を殺したかったという、この男。
今、彼は本懐を遂げたわけだが、ハーディたちがどうなるかという問題を置いて考えれば、 王子である彼は、次のこの国の代表となるわけだ。
女王も、美しく若い男女ばかりをで、好き勝手やっていたわけだが、 神経の切れたこの男が、この国の王となればどうなるか。
異邦人であるハーディ達は、この国に対しての愛国心は特に持ち合わせていない。
が、思ったのだ。ヤツをこの国の王にしてはいけないと。


                     続  く


「創  作」