SCC 18

未来は、その手に。

***

「アレックス!!」
厳しい声がして、虚ろな目をしていた白い髪の青年を、少し現実に引き戻す。
そこには、珍しく真面目な顔をして、立っているハーディの姿があった。

「俺の、俺のために」
彼はつぶやき、
「俺のために、”どうでもいい、残りの人生”をくれるんだったろ?!」
そう、叫ぶ。

確かに、アレックスは以前にそう言っていた。
己の命などどうでもよく、ただ、魔力が強いから簡単に死ねないのだ と語った、破戒僧。
だから、ハーディについてゆくことにした。
彼は、自分を必要としてくれたから。

褐色の髪の少年は、言うのだ。
「俺は、ここでボヤボヤしている暇はないんだよ!
誰かに見つかったらお終いだし、牢屋に入ってる時間も、俺にはない!
手伝ってくれるんだったろ、俺が、未来を持つことを・・・!!」

女王は死んでいる。
女王の息子が、その犯人で。
もう、カイルに抵抗する意思はないと思うが、彼がこの国の警察に 捕まったとしても、だ。
自分達の、立場は。
こっそりここから抜け出すつもりだったが、それが出来ないとしたら。
やすやすとは、逃がしてくれないだろう。

違うのだ。それでは、ハーディの書いたシナリオとは違う。
全てを、丸くおさめなくては・・・。

アレックスは急に首を振って、その黒い目に異常な光を走らせ、
座り込んでいるカイルの頭をわし掴みにしたかと思うと、呪文を唱え始めた。

大いなる大地の神 精霊よ 我の声を聞け
ここに今 魂の交錯の儀式を 執り行う
天空に上がりて 滅した者の魂よ いざ参らん

・・・・・・”交 チェンジリング 換”・・・・・


一瞬、煙のようなものが舞い上がった気がした。
顔を涙でぐしゃぐしゃにした王子は、気絶したかのように、 動かなくなってしまった。
・・・どうしたの?としばらくしてからリサが聞くと、アレックスはごく普通に答えた。

「彼は、死にました。」

***

突然のことに、ハーディも驚いている。
彼が何か言おうとすると、アレックスは先に言った。
「女王のショールは、どこにあるんですか。」

えっ、だけど彼・・・っ!とハーディが言うと、アレックスは否定する。
「”彼”のことは、後ででも出来ます!
貴方は、時間がないんでしょう?はやく、ショールを回収しなくては。」

それすらも手に入れなれなければ、自分達はここに来た意味はない。
どうにか、それだけでも。諸悪の根源である、アイテムであっても。
それを、手に入れなくては。
本当に、気がふれてしまう。

多分、こっち、だよー・・・とハーディは言い、3人は、隣の部屋の更衣室 らしい場所に移動する。
リサもハーディも、倒れたカイルが気にかかっていたが。


ショールはあった。
ごく普通に。妙な表現だが、一般的なショールとして、存在した。
(あか)い、ショール。
これがあの、女王を虜にして、王子を悩ませて、19歳の少女を、殺した・・・。

思えば、何と狂気的な赤か。
まるで、血を吸って生きているような、そんな印象を受ける。
ハーディは、布を手にとる。
ずっと探していた、こういった存在を。
彼がこれを身につけるようになれば、問題は解決するのだろうか?

・・・・・・・違うだろうと、3人ともが思う。

第一に、女王と、王子の問題が片付いていない。
第二に、ハーディにかけられた予言が本当だとしたら、
20歳に”見えなくても”、20歳に”なれば”彼は、死んでしまうと いう事だろう。
いや、20歳がリミットではなく、予言は、「20歳前」なのだから、 いつ死んでもおかしくはないのだが。
第三に、女王が若く見えるのは事実だとしても、その力が、以後ずっと続くと いった保証はない。
魔力なのだから、切れる可能性もある。

目的の物を手にしたのに、何一つ、得たものは無い。

思わずハーディは、頭(こうべ)を垂れた。
すると、そんな彼を救うような声が、ハーディの耳に届いたのだ。
聞いたことの無い声。しいていえば、女児の声のようだと思った。

しゃべっているのは、ショールだった。

***

”うふふっ”

そうやって、「彼女」は笑っている。何が嬉しいのか知らないが。
お花畑で蝶を見つけて、嬉しくて駆け回っている子供のように、 無垢な印象を受ける、声だった。
ハーディは手の中の緋色の布を眺め、そして言う。

「・・・っ、しゃべってるの、アンタ、か・・・!」

そうよ、とショールは言う。
驚いている3人に向かって、ショールはつぶやいた。


                     続  く


「創  作」