SCC 4

月は見かけが変わるから、だから面白くて好きだ、と。
そう言うハーディに、リサは微笑んで答えた。

「そうね、興味深いものだわ。」

空にある月というものが、何故、日によって「形が変わるか」
正確には「変わって見えるか」、リサは、詳しくは説明できない。
あの明るい太陽の、お日様の影響で、日光の当たり具合だとか何だとか、 そういったことが関与して、違う形に見えるのだということだけ、知っている。

この国は、一度文明が衰えたから、
夜空に浮かぶ月の、形が何故変わるかということを、科学的に 説明してほしがる人間は、いない。
月は、その美しい姿でひとの心を和ませるもので、
あるいは深夜、灯りを持って出るかどうかの、判断基準になるだけで。

それでもリサは、その時感じたのだ。
ハーディは、月が日によって形を変える理由を、”全て”知っているのだろうと。
言うなれば、学者のようにその仕組みを説明できるのだろう、と。
言い方は悪いが、「単純」に見えるこの少年は、非常に多くのことを勉強している。
それはまさに、”自分には、時間がない”と予言されているからに、他ならない。


短く終わってしまうなら。
それまでに、全てのことを。
いっぱい、いっぱい、楽しいことを吸収して、
それから、迎えが来るのなら、それでいいだろうと。
その道を進むため、ハーディはたくさんのことを学んだ。


若くして聖騎士という、稀有な立場にたっているリサでさえ、
ハーディを見て、思うのだ。
驚くべき人生だわ、と。
彼女が顔を横を向けると、ハーディは言った。

「ねぇリサ、俺、聞いてみたいんだけどさー。
リサは、俺なんかと違って立派な立場の人間じゃん〜?
それなのに何で、こういうことしてるのー?」

言われてリサは、目をパチパチとさせる。
さっき、ハーディの人生について驚異的だと考えていたのに、
ハーディ自身は、自分のこの行動の方が、珍しくうつったようだ。
フッと小さく笑ってから、リサは答えた。

「そうね。

・・・・私には妹がいたの、3歳下の妹。
それがね、妹は19歳の時、突然死んでしまって。
私、その時その場にいなかったんだけど・・・出張で・・・、
帰ってきてからも、誰も何も、その時の状況を教えてくれないのよ。
変だわ、と思って。
”何かある”のだと思ったけど、城にいてはつかめないと思ったから。
だから、城を出たの。
本当は、騎士号なんか剥奪されてもおかしくないんだけど、
何故だか、まだのようね。

だから私は、ふらふらさ迷う、流浪の騎士。
罪のないひとまで傷つける、ひどい騎士。」

言ってから彼女は、ふふと自嘲気味に笑ったが、すぐに失言に気づき、隣人に言った。
「あっ!ごめ・・・。」
「いいよー。リサの妹、19歳で亡くなっちゃったんだねー。
残念だったねー。
・・・したいこと、出来たかなー。」

彼の最後の言葉は、まさに亡き彼女への鎮魂歌(レクイエム)となるだろう。
したいことは出来たかとハーディは問うたが、答えはおそらく「NO」である。
愛するひとと、突然引き裂かれて。
残された方は、狂気のふちギリギリを歩いているようなものだ。


「・・・多分、本人も残念だったと思うわ・・・。」

名も知らない、緩い輝きの星の1つを見つめて、リサはつぶやいた。
星は、人間の魂の生まれ変わりだと、古くから言われるけれど、
妹の、マチルダの魂は、どこだろうと思う。

出来るなら、あの輝く月のように明るく、
”あのひと”の目の届きやすい「ひかり」であるようにと、リサは願う。



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「創 作」