SCC 6

「月の綺麗な夜に」3 アレックス&ハーディ


そしてまた、違う月夜の晩。

その日は、おそろしいほど綺麗な月が出ていた。
だからあえてアレックスは、外へ出た。

月は嫌いだが、
美しき月光は、この身を清めてくれる気がしたから。

すると、最年少だが実質自分たちのパーティのリーダーである少年が、ちょこんと 岩場に座っていたのだ。
ハーディを見つけて、アレックスは言う。

「”画策”でも、しているのですか?」

ハーディは、3人の旅の目的を決め、方針を決め、そしてその為の策を練る。
リーダーだが、参謀の役割もしているということだ。
難しい顔をしていたから、白い髪の青年はそう聞いたのだが、少年は答えた。
「いやー、ぼーっとしてただけー。」

この彼が、”ぼーっとして”時間を過ごすことは少ない。
時間の貴重さを知っているから。ぼーっとしていた、と言ったのは、
考えていたことが、仲間に話すべきことではない、と思っているからだろう。
本当の理由を聞けなかったのは残念だったが、「そうですか」とだけ アレックスは言って、それ以上聞かなかった。

ふいに、褐色の髪の少年が、アレックスに向かって言う。
「なぁ、アレックスー。」
「何ですか?」薄い笑みを浮かべて、青年僧は答えた。


「・・・・・・・・アレックスは、死ぬのが怖くはないー?」


一瞬、空気が凍りついた気がした。
アレックスは珍しく躊躇ちゅうちょして、数秒経ってからやっと、いつもの口調で答える。
「怖くありません。」

自分はそう答えると分かっていたのに、何故尋ねたのだろう。
そう、アレックスは思う。
あの日、愛しい彼女を失ってから、アレックスは、それ以外のことはどうでも良くなっている。
生き延びることに大した興味はなく、だから、死ぬのは怖くない。
もっと自分に興味が持てたら、この生活自体が変わるのだと思うが。

そっかー、とハーディは、やはり返ってくる答えが分かっていたような、返事をした。
少年は、空を見上げてつぶやく。
「俺はさー、怖いんだよー。」

やっぱり20歳前に死んでしまうのだろうか、と。
こんなに健康なのに。心臓も肺も、正常に動いているのに。
いつか突然、バタリと倒れるのか。
今度眠ったら、二度と起きられないのではないか、と。
そういったことが頭をぐるぐる回るから、ハーディは夜、眠れないことがよくある。

だから、そんな夜は月と星を眺めて、
いきいきと輝くそのパワーが、自分のものになったらいいな、と。
そういったことを考えながら、月夜の晩に外に出る。
東の方には、星が願いを叶えてくれるという迷信があるらしいよー、とハーディは言う。
「俺も、願ってもいいかなー。」

アレックスが思うに、
この褐色の髪の彼は、今までしたことはともかく、
元は、それほど多くを望んではいない。
ただ、”人並みの長さを生きたい”と。
きっと少年が空に祈ることも、それで。

ふいに気づいた。
スカーレットキングダムの女王が持っている布は、彼女を異常に若く見せる。
その布自体に、ひとの時間を遅くさせる魔力があるのだとしたら。
ハーディは欲しがるだろう。純粋に。
その宝を手に入れて、彼の「冒険」は終わりだ。
願いを叶えてしまうから。


・・・それもいい、とアレックスは思う。


自分が破戒僧となり、剣を持つのは、
誰かに復讐する為ではない。
ただ、この力の矛先を向けるところがなかったから。だから暴力に訴えた。
そんな自分を、ハーディと、同行していたリサは、「うまいこと」利用した。
パーティの仲間に加えたのだ。
自分のような壊れた”個体”に、何を言うのかと最初は思った。
だが、若い男の言い分を聞いて、妙に納得してしまったのだ。

”目的がないのなら、俺についてきてよー。
俺は目的はあるしー。アンタの力を借りたいしー。
そのうち、アンタの目的も見つかるかもよー。”


この少年の”最後”を見るまで、私はここを離れることはできませんね、と アレックスは思う。


                    続  く


「創  作」