俺の友人


いずみさんは、生まれつき目が悪い。)

***

教師が、ペーパーテストの問題と回答用紙を配っている。
配布し終わってから、教師は生徒達に聞いた。
「何か、質問のある者はいるか。」

1人の生徒が、「先生、Q5は、カッコ内から用語を選ぶんですよね。
同じ言葉が2回入ることは有りますか?」と尋ねた。
それに返答する教師。
「センセー、問題、1枚足りない〜!」と遅れて反応する生徒が1人。
急いで1枚を回すよう指示する、教師。
しばらくザワザワしてから、もういいなと思い、教師が試験を始めようとした時だ。
一番前の席に座っている、眼鏡をかけた男子生徒が、試験問題を目の近くに 寄せながら、試験官である教師に向かって、言った。

「すみません、一番下の問題が・・・・読めません。
先生、一回音読してもらえませんか。」

***

「コンタクトにすればいいのに〜。」
そう、1人の女子生徒が提案して、彼女の友人であろう横の女子も、そうそう!と 言って、はしゃぐ。
言われた方は、ただ笑っている。
先ほどの試験で、最後に質問をした少年は、黒いふちの眼鏡をかけている。
顔立ちはほっそりとして優しく、いわば美少年といえる外見をしているので、 眼鏡をやめて、コンタクトレンズにしたらどうか、と言っているのだ。
少年自身は、目の前の少女たちほど、己の外見を気にかけてはいなかったが。

そこへ、少年の親友といえる男子生徒が現れた。
「よぅ泉さん、さっきの試験、どーだった?」
「うーん、まずまずってとこかな。大体、解けたよ。」
泉と呼ばれた眼鏡の少年はそう答えて、にこにこしている。友人の男もそんな彼を見て少し微笑み、 それから立っている、2人の女子生徒の方に目を向けた。そして言った。

「なぁお前ら、さっきコンタクトがどうとか、言ってなかったか?」
言ったわよ、と1人が答えると、彼はやれやれといった様子で手をあげ、彼女達に言う。
「あのな、泉さんはすでに、コンタクトをしてるんだよ。
コンタクトをしてから、眼鏡をかけてるの!分かる?」
彼がそう言うと、少女達は少し驚きの声を上げ、泉の方を向く。
3人の仲間に見つめられて、少年は少し照れ笑いを浮かべてから、答えた。

「シロウ君の言ってることは、ホントだよ。
僕、目が悪いからさ。コンタクトしてから、眼鏡をかけてるんだ。
あっ!気にしないでね。コンタクトの話は、よくされるから。」

この少年は、生まれつき目が悪い。幼少の頃から眼鏡をかけていたが、思春期を迎えたあたりで なお視力が下がり、前述した通りコンタクトをしてから、眼鏡をかけている。
授業中の席も、黒板の字が見やすいように、一番前に座っている。
しかしそれにあまり意味はなく(何故なら一番前でも、黒板に書かれる文字はあまり 読めなかったから)効果があるとすれば、教師の声が聞きやすい程度である。
いろいろと大変そうなのに、いつも明るく振舞う泉の様子を、シロウと呼ばれた少年は、 腕を組んで眺めた。

***

「シロウ」は、生徒会の役員をしている。早く言うと、会長である。
机の上に書類を置いて、右手に持ったペンを適当に回しつつ、前の席に座っている、泉に 声をかけた。
「泉さん、”何か”ないか?」

何が?と、眼鏡の少年は尋ねた。すると、生徒会長の少年は言う。
「不便なところ。」
何でもいいから言ってくれよ、と相手が提言するので、泉は正直になって、実は前から 気になってたんだけどね、とつぶやいてから、言った。

「第二視聴覚室の灯りが、他の教室に比べて、暗いと思う。見にくいんだ。」
ほぅほぅ、と言って、メモを取るシロウ。
「図書室に貼ってある、”貸し出しの決まり”が、小さくて読めない。もう少し、大きいと良いな。」
分かったぜ、と言って、「すぐ改善するからな!」と叫ぶシロウ。
その一生懸命な様子に、泉はクスクス笑ってから、こう告げた。

「シロウ君はまるで、僕のために学校を”作っている”みたいだねぇ。」

友人のその言葉に、シロウは「おぅよ、俺は泉さんが大好きだからな!」と答えた。

***

「受けるんだろ、T学園?」
そう、シロウは友人に尋ねた。T学園というのは隣県にある、優れた生徒のみを 集めた、レベルの高い高校である。
泉と、そしてシロウも学年で1・2を争う秀才だったから、もちろんそのT学園を 進路希望先として選択しても構わないのだが、友人として、シロウは相手に聞いておきたかったのだ。
受けるのかと聞かれて、泉は少し困った顔をしてから、相手に告げた。

「T学園に限らないんだけどさ・・・
僕、高校の入学試験の問題文が、読めるかどうか、不安なんだよね。」

事情を知っている教師は、泉の為に、
テストの問題文を大きなフォントで印刷する心遣いができるが、
高校入学の試験など、全て同じ文字サイズで印刷されているに決まっている。
しかもあの問題数なら(シロウと泉は受験生だから、模擬試験はたくさん受けている)なおのこと、 小さな字で問題が書かれている可能性が高い。
困ったねぇ、と泉は言って、軽く笑う。
この少年が、このようにカラ笑いをするのは、相手を気遣ってのことだ。
そんな友人の様子を見て、対照的にシロウは眉をひそめた。

雰囲気を変えようと、シロウは違う話題を切り出す。
「もうすぐ体育祭だよな。泉さんは、楽しみか?」
シロウは生徒会長だから、正直言うと体育祭間近は、忙しくて「楽しい」と言っていられない 時期である。
が、自分も含めて生徒会役員が必死になって盛り上げようとしている、体育祭だ。
他の生徒たちにも、楽しんでもらえるのが一番の喜びで。

「あぁ、うん。楽しみだよ。僕は運動があまり得意じゃないけどさ。
・・・シロウ君、いろいろと大変だよね、頑張ってね。」
そう、泉は答えた。それから手を振って、体育祭の準備の仕事に向かう、シロウ少年を見送った。


                        2に続く>>>


「創 作」