BROKEN HEART




オスカーの女好きがカムフラージュだというのは、彼の近くにいる守護聖には既に知れ渡るところである。ただ一番肝心の一人を除いては。
彼がどの女性にも優しいのは、どの女性にも本気になれないと言うことの裏返しなのではないかとオリヴィエなどは思っていた。
つまりオスカーにとって「女好き」とは彼本来のセクシャリティに反しているわけである。
ただ、それは本当に好きな人への思慕や制的欲求を紛らわすために行われている所業に過ぎなかった。
そう、ジュリアスに対する思いへの。

そして思いを告げることも遂げることも出来ぬまま、長い間愛しい人のそばにいて、あまつさえ彼の女王との恋愛まで見守る羽目になって、それがストレスとなり、オスカーの精神はゆっくり壊れて行ったのであった。
精神が壊れた守護聖をそのままにしておくことは出来ない。そんな宇宙の意志は、新しい炎の守護聖を誕生させ、それが故にオスカーの任期は予定より早く終わりに近づいた。
聖地を離れる…。その事実がオスカーの狂気を一層昂進させた。


ある日オスカーの注文だと言うことで大きな重いなにかが彼の私邸に運び込まれた。
それは誰にも隠されたまま邸の地下に安置された。
それは一人掛けソファのような意匠の石造りの女王像。
衣装の襞に隠れて縦に細長い穴が穿ってあり、そこに皮のベルトが通っている。


ジュリアスが行方不明になったのはそのすぐ後のことである。
オスカーを疑う者もないわけではなかったが、誰も守護聖仲間であるオスカーの邸にまでなかなか踏み入ることは出来ず二日が過ぎた。



哀れな獲物は全裸でその女王像に座らされている。
首と、胴回り、そして広げられた両の手首と足首をベルトで固定されて。
申しわけ程度の布が局部を覆い隠すように掛けられているだけである。
二日二晩そのままで。


暗い地下室のドアを開けると、闇の中からくぐもった呻き声とブーンという小さな機械音が聞こえて来るだけである。


女王像の右手は頭のあたり、左手は腰のあたりで軽くすぼまった形でしつらえてある。ちょうど、その手の中に棒状のものが納まるように。
そしてそのどちらの手にも直径2〜3センチの張り型が握らされており、一つは柔らかい皮張りで、哀れな獲物の口に差しこまれている。
手足ばかりか、首も固定されて、口にそんなものが差しこまれているわけだから、獲物は頭すら少しも動かすことが出来ない。
そしてもう一つは味も素っ気もない金属製で、獲物の開かれた足の間にあるただ一つの穴の中に深く差しこまれている。機械音がするのはそこからである。しかもその張り型は細かく振動するだけではなく、電極として微弱な電流が十数秒ごとに流れるようになっていて、それはもう一つ体に密着させられた電極と対になっているのだ。
そのもう一つの電極はその穴の上の器官に抜け落ちない程度に軽く結わえ付けられている。
電流が流れるたびに獲物の体が小さく痙攣し、塞がれた口から呻き声が聞こえる。
「敬愛する女王陛下に犯される気分はいかがですか?」
オスカーのアイスブルーの目は既になにか別の世界を見ているような光を宿している。
その哀れな獲物は、長い金の髪を汗みずくの体にべったりと貼りつかせながら、力なくもがいて見せた。
「もう何度達しましたか?相当お疲れのようですね。そろそろ血の通ったものと取り換えて差し上げましょうか?ジュリアスさま。」
オスカーは哀れな獲物となったジュリアスの口から、ゆっくりと張り型を抜いた。だが自由になったジュリアスの口からはなんの意味のある言葉も出ては来ない。ただ、くぐもっていた呻き声がはっきりとした喘ぎ声になっただけである。
そのとき、ジュリアスの体が大きく痙攣し、悲鳴のような声と共に絶頂に達したのが見て取れた。だが、ほとばしるはずの液体は、もう、ごくわずかである。もう何度も達かされて、ほとんどなにも出ては来ないのだ。
その状態で達くのは相当に辛いらしく、切れ切れの悲鳴と、大きな痙攣は何度か続いた。
「ああ、可哀想に。もう、これも抜きましょう。ほら、力を抜いて。」
オスカーはジュリアスの腰を少し持ち上げ、足の間の電極を引き抜いた。
張り型が引き抜かれる瞬間、ジュリアスはまた、かすれた悲鳴を上げる。
オスカーはもう一つの電極も外す。更に全身を拘束しているベルトを次々と外し、ジュリアスの体を自由にした。だが、無論ジュリアスにもう自分の意識で動く力は残っていない。
ぐったりとしたその体は、女王像から引き離されて、されるがままにオスカーに抱き取られる。
ジュリアスの瞳は既に虚ろを見ている。もう意識も混濁しているようだ。
「ちょっと長く続け過ぎたかな。もう少し口が利けるときに来て、ジュリアスさまの誇り高いお言葉を拝聴したかったのに、これではもうダメなようですね。」
オスカーはジュリアスの半分萎えたそれを握り締める。
ジュリアスは背中を仰け反らせて悲鳴とも喘ぎともつかない声を上げた。
オスカーはジュリアスのそれ全体を強く揉んだり扱いたりし、その度にジュリアスは哀れな声を上げる。もう、絞り尽くされたそれはほとんど勃ち上がりもしない。それでも辛いのか感じているのか、ジュリアスの涙と唾液と汗にまみれた顔は官能の表情を見せる。
「そろそろ、挿れますよ。」
オスカーはそう言って、自分の猛るものをズボンの前立てから取り出した。
そしてジュリアスの濡れそぼった穴に背中側から押し当て、一気に突き込んだ。
張り型よりかなり太さのあるそれは、長い間押し広げられていたそこと言えども、かなりのきつさであるらしく、ジュリアスは大きく喘いだ。
オスカーはジュリアスの体を膝に抱えたまま、大きく激しく上下させる。
ジュリアスの青い瞳から大粒の涙が零れ落ち、苦しさのあまり、大きな切れ切れの悲鳴を上げる。背中が痙攣と共に大きく仰け反る。その姿にオスカーはますます昂ぶる。
「ジュリアスさま…もう、…あなたは永遠に私のものですっ…」
オスカーはジュリアスの体を激しく揺さぶりながらそう叫んだ。
いつの間にかジュリアスの声は聞こえなくなっている。虚ろを見る青い瞳は少し開いて、体は微動しているものの、既に意識は手放しているようである。
オスカーはそんなことなどお構いなしにジュリアスを揺さぶり、ついにジュリアスの中に欲望の徴をぶちまけ、ジュリアスの体は一度大きく痙攣したきり、動きを止めた。
オスカーはジュリアスのそこから自分のものを引き抜く。白濁した液体がそこから零れ落ちた。オスカーは真っ赤な舌をぺろりとなめずって、ジュリアスのもうまったく動かなくなった体に口付けた。そして全身を順々にくまなく舐めまわす。
そのアイスブルーの目に狂気を宿しながら。



事が済んだあと、オスカーはジュリアスを抱えて廊下に出た。
そしてそのまま地下室を出て、今は主の変わりつつある炎の守護聖の私邸の廊下に出る。
全裸でぐったりとしたジュリアスを抱えたままのその姿は、あまりにも異様で、邸の使用人達は息を呑み、動くことすら出来ない。
「あんた、いったい何をやってんのさ!」
異様な静寂を破ったのは夢の守護聖の声。
「オスカー!いったいこれはどう言うこと?あんた、本当に……」
オリヴィエはオスカーの目を見て口篭もった。その、狂気に支配された目。
口元には微笑さえ浮かべている。
「……ジュリアスを返しなさい!いったいジュリアスに何をしたのさ!」
「邪魔をするな…。この方はもう永遠に俺のものだ。誰にも渡さん。」
そのときオリヴィエの後ろから真っ黒い影のようなものが浮かび出て、オスカーに触れた。
「眠っていろ。」
クラヴィスに直接闇のサクリアを送りこまれたオスカーは、あっけなくそのままそこに崩れ落ちた。
「ジュリアス!」
オリヴィエがオスカーの下からジュリアスを引っ張り出す。
クラヴィスは自分の衣を剥ぎ取ってジュリアスをくるむ。
ジュリアスの薄く開かれた目に既に光はない。小さく開いた口にも既に息はない。
「ジュリアスーっ!」
オリヴィエが大声でジュリアスを呼ぶが、ジュリアスはなんの反応もしない。
「外傷はないようだな…擦り傷くらいか…。」
そう言いながらクラヴィスは、ジュリアスの顔を仰向かせると、いきなり口付けた。
「あ、あの、クラヴィス。頭をもう少し仰け反らせて、そう、頑張って、疲れたら私が代わるから…頑張ってよ!」
クラヴィスは一心に息を吹き込む。ジュリアスの胸がクラヴィスの吹き込む息で膨らむ。
「ジュリアス!ジュリアス!死んじゃダメだよ、ジュリアス!」
オリヴィエもジュリアスの魂を引き戻そうと、必死で叫ぶ。
力なく床に落ちていたジュリアスの手の指が、ぴくり、と動いた。
「ジュリアス!頑張って、クラヴィスも頑張って!」
クラヴィスは力の限りジュリアスに息を吹き込む。
いつの間にか現れたルヴァがジュリアスの体を一生懸命さすっている。
リュミエールがジュリアスの心臓のあたりををぐいぐいと押している。
「ああ。リュミちゃん、あまり力を入れないでね、アバラが折れちゃうからι」
オリヴィエは必死のあまり、涙声である。
ジュリアスの真っ白な頬に少しだが赤みが差して来た。
と、同時にジュリアスの口から小さな呻きが漏れたのにクラヴィスが気づいた。
「ジュリアス!」
ジュリアスから口を離したクラヴィスがそう呼んだのに呼応して、ジュリアスの長い睫毛が僅かに揺れた。それを見たクラヴィスは安堵の溜息をつき、その場に座りこむ。
ジュリアスはやっと自力で呼吸を始めた。
「クラヴィス、疲れたでしょう、本当に良く頑張ってくれましたね。」
ジュリアスの手首の脈を確かめながらルヴァがそう言った。
「…オスカーは、私にお任せくださいませんか?」
立ちあがったリュミエールが倒れているオスカーを見下ろしながらそう言う。
「あ、ああ、リュミちゃん。あんたなら力持ちだし、とりあえず、どっかの部屋にこの男閉じ込めといて……ああ、もうマスカラ剥げちゃった。」
オリヴィエが涙を指で拭いながらそう言う。
リュミエールは会釈をして、オスカーを担ぎ上げた。
「宮殿に確か座敷牢のような部屋がありましたよね〜。もう長いこと使ってはいませんけれど、このような事態では止むを得ません。あそこにオスカーを入れておくことにしましょう。いいですね〜?リュミエール。」
「はい、ルヴァさま。あの、クラヴィスさま、もうしばらくオスカーは…サクリアの効果は続くでしょうか。」
「かなり力を送ったからな…一日二日は目覚めんだろう……私は休ませてもらう。」
「ああ、クラヴィス、お疲れさん。ほんとーに助かったよ。来てくれて、あんがと。」
「さあ、医者の先生をお呼びして、きちんと手当てしないと。あ〜、酸素吸入器って、ありましたかね〜。あ、あるんですか?すぐ持って来てくださいね〜。」
やっと気をとり直したメイドがルヴァの言葉に弾かれるように走っていく。
「ジュリアスも宮殿に運びましょう。ええと、あ〜、どうしましょうかねえ。ジュリアスを運べる人は〜」
「私とあんたで何とか運ぶしかないんじゃない?クラヴィスはヘタってるし、リュミエールはオスカーで手一杯だし、あとここにいるのは女の子ばっかりだし。」
「やっぱりそうなりますかね〜、オリヴィエ。は〜、それじゃ足の方持って貰えますかね〜、は〜重い。」
「ああもう、せっかくシリアスな展開のはずが、あんたが入っちゃうとど〜してほのぼのしちゃうのさ。ま、いいけど。」
そしてジュリアスとオスカーは宮殿に搬送された。



ジュリアスは翌日には何とか危険な状態を脱した。意識はまだ戻らず、酷い体験をしたためにひどくうなされることが多く、クラヴィスとオリヴィエがつきっきりとなる異常事態にはなったが、まあジュリアスのことだからいつかは立ち直るであろう、というのが周りの一致した意見であった。


問題はオスカーである。間もなく新しい守護聖がやってくる。年少組三人をこの事態から引き離す意味も含めて使者として迎えにやっている。
もうオスカーはここにいる意味がなくなる。だが、今まで苦楽を共にして来た仲間を、こんな状態で放り出そうとは誰も思わなかった。彼に今、一人での普通の生活など出来はしない。だからと言って精神病院に入れようなどとは、もちろん女王も含め誰も言い出しはしない。せめて彼の心が救われるまで彼を聖地に留まらせよう、と誰からともなく言い出し、彼の世話はリュミエールが改めて買って出た。
「対の力を持つ守護聖ですから。」
リュミエールもまた、こうなった以上自分の任期ももう先が短いであろうことを悟っていた。自分もオスカーの気持ちがよくわかる。そんなリュミエールだからこそ、正気を手放したオスカーを見捨てることはできない。
「お互い、報われない恋をしてしまいましたね。」
リュミエールは宮殿の座敷牢でオスカーと二人きりで向き合い、そう呟く。
オスカーは最初は暴れもしたが、リュミエールの水のサクリアの影響もあってだんだん心荒むところがなくなって来た。
「ジュリアスさま。」
ある日、オスカーが食事を持って現われたリュミエールにそう言った。
「ジュリアスさま。あいしています。」
オスカーはリュミエールに縋ってそう言った。まるで母親を慕う子供のように。
リュミエールはそんなオスカーを愛しく思った。
「わたくし……いえ、私も…そなたを愛している、オスカー。」
リュミエールは躊躇いつつも、そうオスカーに告げた。
オスカーの顔が急に明るく輝いたように見えた。
「ジュリアスさま。」
「オスカー。」
リュミエールはオスカーを受け入れた。
何故本物のジュリアスにあのように異常な行為をしたのかと思うほど、オスカーは優しくリュミエールを抱いた。
そしてリュミエールは毎日、オスカーを訪れるたびに彼に抱かれ、その行為はいつしかリュミエール自身の心をも癒していった。
「クラヴィスさま。」
リュミエールはオスカーに聞こえないようにそう呟く。
きっと近いうちに新しい水の守護聖が誕生して、リュミエールはオスカーと共に聖地を去るだろう。それでいい、とリュミエールは思う。



「リュミエールたちはもう行ったのか?」
一月余りしてようやく床を上げ、執務に復帰すべくリハビリを始めたジュリアスは、最近彼の病室に入り浸って、そこで寝てばかりいる闇の守護聖にそう尋ねた。
「まだ…だがもうすぐだろう。昨日、リュミエールが最後の挨拶だと言って来た。」
「見送りに行かなくてよいのか?」
「おまえこそいいのか?」
ジュリアスは俯いた。あれからオスカーには会っていない。もちろんジュリアス自身動けないこともあったが、やはりあれほどの目に遭ったジュリアスとしては避けたい気持ちがあっても仕方ないだろう、と他の者は皆思っていた。
しかしこれが最後である。これが永遠の別れになるのだ。
「……まあ、会ってもおまえを認識できるか怪しいものだが。」
ジュリアスは無言である。
「……行かぬのか?」
「クラヴィス……私は…」
「あれの気持ちをおまえが受け入れられぬことは仕方のないこと。それを気に病むことはない。だが、あれをおまえは許すことが出来るか?もし許す気があるのなら、会わなければ後悔するのではないか?」
「許すなど……私は初めから…恨んでなどいない。私への気持ち故にしてしまったことだ。それは理解している。だが私こそあの者の気持ちを踏み躙ってはいなかったのか…。それを思うと……許して欲しいのはこちらの方だ。」
「では、行くのだな。」
ジュリアスははっきり頷いた。
そして二人は部屋を出ていった。



「さあ、オスカー、そろそろ参りましょう。」
リュミエールは柔らかく、温かそうなセーター姿で、コートを纏って聖地の門の前にいた。
共にいるオスカーはカジュアルなセーターにジーンズ、分厚いブルゾン。まだ聖地の中のこの場所では少々暑く感じたが、外界はもう晩秋であると聞いたのでこのようないでたちである。
オスカーは黙ってリュミエールの肩を抱いた。
と、そのとき、遠くから馬の足音がする。
「ジュリアスさま、クラヴィスさま!」
リュミエールがそれを見て思わず叫ぶ。二人は馬に乗ってここまでやって来た。
「ジュリアス……さま?」
オスカーが呟く。はっとなったリュミエールはオスカーを見た。
オスカーの瞳はまっすぐジュリアスの光り輝く姿を見つめている。瞳に涙を浮かべて。
「オスカー!」
ジュリアスは馬を飛び降りて駈け寄って来た。
「オスカー、私は……」
「ジュリアスさま。お元気になられたのですね。」
「オスカー、貴方……」
オスカーの瞳は遠くを見ていない。ただジュリアスを見つめている。
「そなた、まさか、正気に……?」
オスカーはばっとその場に両手両膝をつき、頭を下げた。
「申しわけございません、私は貴方にとんでもないことをしたのですね?」
明らかにオスカーの言動は正気としか思えなかった。いつの間に?リュミエールは思った。昨日も自分はオスカーに抱かれた。いつしか体を交えることが生きるための糧となっていたから。
「どれほど謝っても済むことではありません。ですが、本当に貴方が生きていてくださってよかった。」
「オスカー…?」
リュミエールがオスカーの肩を抱くようにしながらひざまずく。オスカーは肩に回されたリュミエールの手を取ってこう言った。
「リュミエール。おまえにも本当に感謝している。……だが、俺は完全に正気に返っているわけではない。今は確かに正気……だと思う。だが実は今までも短い時間だが時々こんなことはあった。おまえには黙っていたがな。だが記憶はすぐ途切れてしまっている。もうきっと完治することもないのだと思う。…恐らくこれからもこんなことの繰り返しだ。それでも、俺と共に暮らしてくれるというのか?こんな俺でもいいのか?」
「もちろんです、オスカー。私の気持ちに変わりはありません。」
「行ってしまうのだな、リュミエール。」
「クラヴィスさま…」
やっと馬から降り、彼らのところまでやって来たクラヴィスが優しい目をしてそう言った。
「クラヴィスさまにも……本当にお世話になりました。」
「フッ…世話を掛けたのは私のほうだろうが…。」
黙って立っていたジュリアスはいつしか両の瞳から涙を流している。
「ジュリアスさま?」
「済まぬ、オスカー!」
「ジュリアスさま?!」
「私はそなたに、なにも報いることが出来なかった。いつも私の傍にいて、それが当たり前だと思っていた…。だが、どれほどのものをそなたから受けていたのか…。それなのに私は…。済まぬ、オスカー。そなたの気持ちには応えることは出来ぬが、今までの仕打ち、許してくれるだろうか……っ」
オスカーとジュリアスはひざまずいたまま抱き合った。お互い、言い尽くせぬ思いをただ一度の抱擁に込めながら…。


「それでは、お別れです、ジュリアスさま、クラヴィスさま。」
リュミエールはオスカーの肩を抱き、立ち上がらせた。
「オスカー?」
オスカーは今は柔らかな微笑を浮かべていた。だが、アイスブルーの瞳は再び輝きを失い、仄かな光のみを帯びている。その精神は再びどこかに行ってしまったようだ。
「だが、幸せそうな顔をしているな。もう彼は苦しみから開放されたようだ。」
クラヴィスがオスカーを見ながらそう言う。
「そなたが言うのなら、そうなのだろうな。」
「御安心ください、ジュリアスさま。オスカーはきっと私が護ります。」
「…ああ、頼む、リュミエール。」
そして二人は聖地の門を出て行った。



「クラヴィス…もしかして、リュミエールはそなたを…」
「言うな、ジュリアス。どうしようもないことなのだ。」
「……そう…だな。」
「順序が逆になってしまったが、私たちがここを出ていく日もそう遠くあるまい。だが私たちは…ともに出て行くことなど…恐らくは出来はしまい。あの者たちは、幸運だったのだ。そう思えばいい…。」
「そう……思うことにする…。」
彼らはきっと幸せに暮らす。そう、信じよう。
ジュリアスはクラヴィスに肩を抱かれながら歩き出した。


残された守護聖の務めを全うするために、再び聖地での暮らしが始まる。


END


一応一部からリクエストのありましたオスジュリSMもの、のはずでした。でも結
局、過激な描写はあったけれど、ちょっと別のものになってしまいました。しかも、
これはもともとメモとして書いたもので、人様にお見せするつもりはなかったので
す。だけど後半に行くに連れて、お見せしてもいいのではないかと思うように…あ
ああ、どんなモンでしょうか。これ、バッドエンドじゃないですよね?