いつまでも、ずっと。
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「おや、あなたもいらっしゃったのですか?」
湯気の向こうにさらりとした水色の髪が朧気に見える。
「ふふ、こんばんわ、リュミエールさま。」
カラカラとガラスの引き戸を開きながら、青い髪を揺らし、華奢で骨ばった裸体を隠そうともせずにセイランが歩いて来る。
「こんばんは、いい月ですね、セイラン」
水の守護聖が煌々と輝く冬の冴えた月の光に、その優しい微笑を照らされながら言う。
「いいお湯ですか?僕も一緒に入ってもいいかなあ。」
「もちろん、かまいませんよ。でもちゃんと体を流してからですよ。ここは公共のお風呂ですからね。」
「はいはい、わかりました、守護聖さま。」
くすくすと笑いながらセイランは手元にあった洗い桶を掴むと、岩風呂の湯船からお湯を汲み出して自分の体に掛ける。
ざあっ、と流れるお湯の下からセイランのその真っ白い肌が濡れて輝き、いっそうなまめかしく見えた。
「さてと。入りますよ。横を空けてくださいね。」
「ふふ、いくらでも空いていますよ、どうぞ。」
そう言いながらもリュミエールは少し体を寄せて場所を空けるような仕草をする。
「ああ、いいお湯ですね。外が結構寒いからとてもいい気持ちだ。」
「ええ、本当に。」
「……こんなことをしていると、僕たちが今どうしてここにいるかなんて理由を忘れてしまいますね。そうは思いませんか?」
「…そうかもしれませんね。確かにこんなのんびりとしている場合ではない、といわれたらそれまでですけれども。」
ここは『眠れる大地の惑星』。
そして今、時はまさに決戦前夜であった。
無事何とか主星に戻り、女王陛下と宮殿を侵略者たちの手から奪い返した新宇宙の女王と守護聖たちではあったが、まだ侵略者『皇帝・レヴィアス』とその仲間の守護聖の姿を模した部下たちが残っている。
皇帝たちは良民たちを操り、モンスターの姿に変えている。女王を取り戻したとは言え、このまま侵略者たちを野放しにして置くわけには行かない。彼らは戦わねばならないのだ。どんな結末になるかはわからないが。
とは言うものの、彼らはここまでの戦いで消耗し、心も体も傷ついている。
いくら癒しの魔法があるとは言え、心身ともにまったく元に戻すことは出来ない。
そこで以前立ち寄ったこの良質の温泉のある惑星に、せめて一夜の休息を求めて彼らはやって来たのである。
「まだ少し跡が残っているようですね。」
リュミエールはセイランの白い首筋を眺めながらそう言った。
セイランが皇帝部下たちに拉致されて受けた凄惨なレイプの跡は、かなりの時間が経過した今でも完全に消えることなく残っている。首には紐で括られた擦り傷の跡がまだわずかに認めることが出来た。リュミエールはそっとその指でセイランの首筋を辿った。
「…くすぐったいです、リュミエールさま。」
そう言ってセイランはその水の守護聖の長い指を掴む。そしてその指をぱっくりと咥えてくちゅくちゅと舐めた。
「……駄目ですよ、セイラン。ここでは…」
リュミエールはその微笑を絶やすことなく言った。セイランは一度その指を口から離すとこう答える。
「大丈夫ですよ、リュミエールさま。だれも来ませんから。」
「…何故です?」
「この宿って、小さな露天風呂がたくさんあるでしょう?ここもそのひとつですけどね。で、頼むと貸切にも出来るんですって。知りませんでした?」
「……いいえ、全然。じゃあ、あなた…」
「もちろん、抜かりはありませんよ。もうここは僕たちしか入れません。」
「まあ…まったくあなたと言う方はせっかちな方ですね。せっかくジュリアスさまが好意で同室にしてくださったんですから、夜まで待てなかったのですか?」
拉致事件のせいで、もう守護聖たちの間で公認(黙認?)となったこの水の守護聖と感性の教官の深い仲ではあるが、あのお堅いジュリアスが決戦を前にして二人を同室にするという『粋な計らい』に、他のメンバーも驚いたものだった。だが女王を無事にその手に取り戻した首座の守護聖は、それくらいお安い御用といえるほどハイになっていたようである。
もちろん、自分の恋人である女王陛下をその手に抱くことの出来るのはまだ先のことなのだが、それでもジュリアスは構わなかった。閑話休題。
「心外だなあ。リュミエールさま、あなたにそんなこと言われるとはね。…ふふふ、それにもう夜ですよ。ほら、月が綺麗だ。」
「それは先ほどわたくしが言いましたよ。」
セイランはそれには答えずじっとその蠱惑的な瞳でリュミエールをみつめ、そしてその濡れた唇を開く。
「あなたの方がずっと綺麗ですけれど、リュミエールさま?」
「ふふ、ありがとうございます、セイラン。」
セイランはリュミエールの指を掴んだまま、もう一方の手で肩を抱き彼に口付けた。そして当然のように舌でその口の中を貪る。もちろんリュミエールもそれに応え、二人の口付けはお互いが息苦しくなるまで続いた。
「は、ふぅ…っ、ああ、美味しい。」
「ええ、私もです、セイラン。」
「ふふ、今夜はね、ちょっと違ったことをしようかなって思っているんですよ。リュミエールさま、あなたさえよければ。」
「何ですか?それは、セイラ……あッ…ん…」
いきなり水の守護聖の足の付け根にあるそれをセイランは握って来た。
「あ、や、やめてくださ…んん…」
相変わらずセイランの片手はリュミエールの指を握ったままだ。もちろんリュミエールは簡単にそれを振り払えるはずなのだが何故か彼はそうしなかった。
「ん、ふ、あ…っ…あっ……は…」
温かい湯の中で、セイランの愛撫が続く。リュミエールはその白い頬を真っ赤に染めて、何も抵抗せずに快感を楽しんでいるようだった。白く美しい喉をセイランに見せつけながら、リュミエールはなまめかしく喘ぎ声を上げる。それを見聞きしているセイランも既に昂奮して感じて来ている。それでなくとも湯の温かさのせいで二人ともだんだんのぼせて来たことは確かのようだが。
「は、ああ……もう…ん、だめ…お湯が…ああ…」
湯の中でびくびくと震えるリュミエールのそれをぐいと掴んで、セイランは言う。
「お湯が…汚れてしまう、ですか?…ふふ、大丈夫。…もう少し、我慢してください……んん……」
セイランは少し立ち上がって、リュミエールのそれに覆い被さるようにしてから、ゆっくりと再び座り始める。浅めの湯船ではあるが、いつの間にかリュミエールは湯船の底に両手を突かされ、顎ぎりぎりまで湯に浸かった形で仰け反るようになっていた。
「はっ…あ、ああ…リュミエール…さまっ……んんん…っ…はぁ…ッ…」
セイランが喘ぎながら自分の中にリュミエールのそれを納め、そしてそのまま動いた。
「あ、ああ、いい、いいです…っ、リュミエールさま…ッ…」
「セ…セイラ……ン…っ…は、ああ、ああ、わ、わたくしも…っ…いい…はぁ…ぁ」
セイランも頬を染め、その口許から銀の糸を引きながら激しく上下する。既に虚空を見つめるその潤んだ瞳に譬えようもない艶を宿しながら。
「リュミ…エ…ルさま…はッ…ん…綺麗…、まるで…人魚みた…い…いィ…あ…も、もう……イ……イっちゃ…う…んッ…」
「セ、セイラン…あぁ…あなた…も…も…う…達く…わたくしも…あ、あぁ…だめ…このままでは…だめ…ッ…」
リュミエールはセイランに咥えられながら膝を折り込んで全力で立ち上がり、最後の力を振り絞るように湯の外に繋がったまま倒れこんだ。
セイランはその刹那、大きく喘ぎながら達し、次いでリュミエールもセイランの中で果てた。
二人は濡れた敷石の上で繋がったままの状態で大きく喘ぐ。湯の中で長い時間睦み合っていたためにいいかげん二人とものぼせ切っているようだ。
「い…いた…い、痛いです、リュミエールさま…」
二人は繋がった部分を真ん中に大きく広がるように横向けに倒れていた。
「あ、痛いですか?ここが?」
そう言ってリュミエールは慌ててセイランの中から自分を抜き取る。
「そ、そうじゃなくって、いや、そこも痛いけど、あ…頭……、ひ、ひどいですよ、ぶつけました、頭。」
セイランは側頭部を押さえている。倒れ込んだ時に敷石にぶつけたようだ。
「だ、大丈夫ですかセイラン。」
リュミエールはそう言ってセイランの方に近づき、濡れた髪の毛ごと頭をさする。
「……ああ…瘤が出来ていますね。」
「いた、いたた…、さ、触らないでください…っ」
「あ、すみません。で、でも…」
そう言いながらリュミエールは、いつの間にかセイランを膝の上に乗せていた。おそらく子供の怪我の様子を見るような気分になっていたようだ。
だが彼らは子供ではなく恋人同士で、しかも生まれたままの姿であった。
「ん……、あ、あん…」
セイランはリュミエールの膝の上で、再び頭をもたげて来た彼自身を感じて小さな喘ぎを漏らし、少し腰を揺さぶった。
「あ…セイラン、そんな…動いたら、また……あ…んん…」
リュミエールも小さく喘ぐ。セイランはその左手でリュミエールに抱きついてその唇と口腔を再度味わう。そして右手を堪らず自分のものに伸ばし、自慰を始めた。
「あ、ああ、いい……っ、リュミエールさま、もう一度…欲し……いッ…、ちょう…だいッ……は、いい…ん…」
自慰に耽るセイランの堪らなく淫靡な表情を見つめながら、自分も確かに昂ぶりを感じつつ、どうして自分たちはこの欲求にここまで忠実になってしまうのか、とリュミエールは思う。今まで…そう、セイランを初めて抱くまで、性欲も含めた自分の欲を最低限に押さえて来たはずのリュミエールであったはずなのに。
「セイラン……可愛いセイラン…。わたくしが欲しいのですね…ああ、もう、こんなに…あなたって人は…」
そういうとリュミエールはセイランを軽く抱き上げ、濡れた敷石の上に横たえる。敷石の冷たくて硬い感触がかえって彼らの性感を高めているようである。
「あ…ん、いた…硬い…はああ…」
「我慢するのです、セイラン。ほら、もっと良くしてあげますよ…」
そう言ってリュミエールはセイランの股間に顔を埋め、彼自身の根元を強く掴みながら、その湯と露に濡れて光る彼自身やその後ろのいろいろな部分を存分に味わい始めた。
「ひ…、ひあッ…そこ、いいッ……は、ああ…ッ…ひあッ……」
セイランはその欲望を堰き止められたまま執拗にリュミエールの舌で責められ続ける。気が狂いそうな快感を全身で表すようにセイランは激しく喘いでのたうちながら、ああ、この人の愛し方はこうだったんだ、と、頭の片隅で少し思い出していた。
舌による長い愛撫の末、いつの間にかその長い指で後腔も犯しながら、それでもリュミエールはセイランを締め付けて、達くことを許さない。
「あ……ひ…い…イかせ…て…ぇ…、も…死ぬ…死んじゃうぅ…、あ…ぁ…」
顔を上げたリュミエールは、虚ろを見るセイランの濡れた瞳を見ながらほうっと溜息をついた。なんと美しい顔だろう。なんと淫靡で、扇情的な表情だろう。
リュミエールは片手でセイランを締め付けたままもう片手で彼を軽々と持ち上げると、己の猛ったものでセイランを刺し貫く。
「ひっ……あ…あああ……は…ぅ……ぅ…ぁ…ぁぁ…ッ…」
リュミエールを呑み込んだまま揺さぶられ続けながら、セイランは涙と唾液に濡れそぼった顔をしてがくがくと震えた。もう意識も朦朧としているようだ。
「セイラン…可愛いセイラン…ああ、わたくしも…もう……あ…い、達く…」
リュミエールはセイランの中に精を放ちながら、漸くその締め付けを解き放った。セイランは意識をほとんど飛ばしたままやっと開放され、そのまま完全に失神してリュミエールの腕の中に沈んだ。
セイランが目覚めたのは、ベッドの中だった。
ふと見ると、セミダブルのツインベッドのひとつに寝かされ、横では既にリュミエールが静かな寝息を立てている。二人ともちゃんと夜着を着ているようだ。
「ふう…」
セイランは小さい溜息をついてリュミエールを見た。
(もうすぐ、旅が終わってしまうんだな。)
自分たちが勝とうが負けようが、その日は近いうちにきっとやって来る。負けて命を落としてしまったらもちろんのこと、たとえ勝っても、二人は再び別々に暮らさなければならない。
もう二度と逢うこともないかもしれない。
セイランの瞳が、期せずして涙で潤む。セイランは小さく鼻を啜り上げた。
と、静かに呟くような声が聞こえた。
「きっと…また、逢えます。私は、信じていますよ。」
セイランは少し驚いて目を瞠る。そしてやがて涙目のまま笑って言った。
「…結構、楽天家なんですね、リュミエールさまは。」
「そうですか?もともと悲観的なほうだったんですけれど、変わったのでしょうか。」
「聖地であの方々や、あの女王陛下と暮らしていると、そうなるのかもしれませんよ。お目出度い方たちが多いから。」
「ふふ、そうかもしれませんね。特に、女王陛下は。」
「そうですよ。僕たちが旅を終えて帰る頃にはもうすっかり元気になって、いつもの調子に戻ってらっしゃるに違いない。」
「それは頼もしいですね。…ええ、きっと、あの陛下なら。」
「あの能天気さは一種の才能ですよね。」
「ええ、でも前向きなのは良いことですよ。」
「ふふ。そうですね、逢うは別れの始めだって言うんなら、きっと別れるのは再会するためだってことなんでしょうね。」
「ええ、きっと。」
「ふふふ。」
二人はどちらからともなく微笑み合って、軽く唇を合わせ、そしてそのまま体を触れ合って眠った。暖かく幸せな夜だった。
そして二人はその晩のことを忘れることはなかった。
いつまでも、ずっと。
おしまい。
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