リュミエールBD記念
パラダイス


「 ところで、」
炎の守護聖オスカーが言った。
「もうすぐお前の誕生日だな。……何か欲しいものはあるか?リュミエール。」
「……別に…ありませんけれど…。」
オスカーの恋人、(のはずの)水の守護聖リュミエールが答える。
「……そんなことはないだろう?何かあるんじゃないのか?…まあ、確かにお前は欲の少ない方だとは思うが…」
「…思いつきません。…特に最近不便に思うこともありませんし。」
オスカーはがっかりしたようだった。
(これなら、内緒のプレゼントでも考えといた方がよかったかな?…まあ、それも考えつかなかったというのが本音だが…)
オスカーはじっとリュミエールを見つめている。何か彼が自分に要求するものはなかったか…?
(……愛。)
と、そう考えてオスカーは赤くなった。
(何考えてるんだ、俺は。……そういうんじゃなくて。)
オスカーはちょっと苛ついて、真っ赤な髪を掻きむしった。
 
「……どこかに…ちょっとだけ二人で行ければ。」
リュミエールがぽつり、と言った。
「……それだ!どこにする?リュミエール。あ、多分陛下なら、そういうのはあっさり賛成してくれるはずだ。聖地時間の一晩くらいで行けるところなら……」
「……海が見たいです。」
リュミエールはちょっと寂しげに言った。
(……そうか、リュミエールの故郷は水の惑星だからな…海が懐かしいんだ。)
オスカーは思わずリュミエールに背中を向けてガッツポーズだ。
(旅行だ、旅行。リュミエールとふたりきりで…!!)
「OKだ、リュミエール!海を見に行こう。…そうだな、やっぱり人のいない静かな海がいいよな。…どこにするかな。」
オスカーはすごく嬉しそうだ。
その顔を見ているリュミエールも嬉そうにほほえんでいる。
「……指輪…。」
「……は?……」
オスカーは思わず聞き返す。
「…指輪が欲しいです。」
「…エンゲージリングかっ?」
「…ええ、そう言うようなものです。」
「俺とお前の…その、永遠の誓いってヤツか?」
「…そんな大げさなものでなくていいのです。…もちろん安物で構いません。…あの…」
オスカーはいきなりリュミエールの両手を取って、真正面から彼を見つめた。
「……結婚しよう!」
「……は…?」
突拍子もないオスカーの台詞に、リュミエールは思わず首を傾げる。
「……も、もちろん俺たちは男同士だから、結婚できるわけはないが…」
「…はい…」
「それに、いつまで二人が一緒にいられるのかもわからない…。俺たちの間を…保証してくれるものは…なんにもないんだ。」
「…はい…」
オスカーはだんだん自分の台詞とシチュエーションに酔って来たようだった。
「結婚なんていったって、形だけだが!」
少しテンションを下げて、彼は続ける。
「…誓いの言葉と、指輪があれば、俺たちの間は、きっと…」
「オスカー…」
「…きっと、いつまでも…離れ離れになっても、きっと…」
「……で、どこに連れて行って下さいますか?」
「………リュミエール。」
「はい。」
リュミエールは、オスカーのこういうノリに付き合っている暇はない。さっさと話を進めるつもりだ。
…もちろん二人のどちらにも悪気はない。だがはっきり言って、性格が違い過ぎるのだ。それが聖地でも『仲の悪い二人』と言われているゆえんだ。
…それでも今ではお互い好き合っているのだから…人とはわからないものだが…まあなんの問題もない。いわゆるバカップルである。
「……確か男同士でも結婚式が挙げられる国とかチャペルとかあったよな…?」
「…そうなんですか?」
「…あるんだ。」
オスカーはリュミエールの目の前までにじり寄って来てそう言った。
「……はい。」
「そこで指輪の交換をする。」
「……交換、ですか。…私も指輪をあなたに差し上げるのですね?」
「……そう言うことになるか。」
リュミエールはちょっと考えているようだった。オスカーはそれがちょっと不安になった。どうしてもオスカーにはリュミエールの考えが予想できない。オスカーにはあまりにも突拍子もないようなことを真顔で言い出すからだ。…これはオスカー以外にもそうであることが多い。と言うより、オスカーの考え方が誰にでも予想がつき過ぎるのだが、それはオスカーにはわかっていない。

「じゃあ、指輪は今自分の持っているものを交換しましょう。…一番大事なものを…。」
リュミエールはにっこり微笑んでそう言った。なるほど、それは合理的であり、且つ印象的なことかもしれない。二人とも普段は指輪をしていないが、持っていないわけではない。

「わかった、それで行こう。」
そうと決まったら場所探しだ!
オスカーはそう思ったが、どこでそう言うことを調べればいいのかわからない。
「……ネットとか…」
「…結婚式っていうと、どちらかが花嫁になるのですか?」
「……は…?…いや、別に…ん、…でもいいかもしれないな…」
オスカーはリュミエールの花嫁姿をちょっと想像してにんまりとする。
「……あなたの体に合うウェディングドレスというのは…大変そうですね…」
「……は……??」
「…やっぱりそうなるとあなたが花嫁ではないのですか?」
オスカーはリュミエールの顔を見る。もちろんリュミエールは真顔である。冗談で言っているのではなく天然だ。
「……俺が……花嫁?」
「確かにあなたの方が背が高いですけれど、多分肩幅は私の方があります。」
「………」
「それに私の方が力があります。」
リュミエールはにっこりした。オスカーもちょっとヤケになってにんまりと笑う。
「…それから…」
オスカーは考える。確かに俺は抱かれる方だし、もしかすると体も華奢だ。…と言うよりリュミエールが逞しすぎるのだ。
髪の毛が長かろうが、見た目が優しそうだろうが、言葉遣いがその辺の女性より丁寧だろうが、リュミエールには関係がないのだ。
彼にとっては、オスカーの方がより『花嫁的』なのだ。
「わかった。花嫁はなしで行こう。」
「了解です。」
(……いがいと天然じゃあないのかもしれないな。)
オスカーはそう思う。思っているよりリュミエールはずっとしたたかなのかもしれない。でもいい。それならそれで、騙されてやろうじゃないか。リュミエールのにっこりと微笑む顔がそこにある。オスカーもつられてにっこりと笑う。

「…で、どこにするかだが…」
「…熱海とか。」
「は…?」
「…横浜もロマンチックですね。」
「コーエーの本社があるところか。」
「海の見えるところで指輪を交換すればそれでいいではないですか。」
オスカーはそれはちょっと寂しいと思った。だがここでリュミエールに異論を唱えると、彼のその気が失せてしまうような気がする。…それにしてもどうしてこうリュミエールの考えていることはわからないのだ。俺の愛が足りないのか、やっぱりリュミエールが変なのか。…ひょっとして俺の方が変なのか???…そう悩みながらハッと前を見れば、リュミエールが立っている。

「オスカー…?」
「う……な、なんだ、リュミエール。」
「愛しています。」
ちゅっ、とリュミエールはオスカーの唇にキスをする。オスカーは真っ赤になった。
「あなたのその気持ちだけで、わたくしは嬉しいです。幸せです。」
リュミエールはオスカーの両手を取って、その掌にもう一度キスをする。
「今度食事にでも行きましょう。海の見えるレストランに。」
「お前の誕生日に、俺の奢りでいいか?」
「もちろん。嬉しいです。」
「指輪を持って。お互いに。」
「はい。」
そこでやっとオスカーはリュミエールを抱き寄せてキスをする余裕が出来た。
(なんだ、これでいいんだ。)
 
愛する人がいれば、そこがパラダイス。
 
リュミエールを抱きしめながら、オスカーはそう思った。
 
(まるめ込まれても、いいさ。)
 
オスカーはもう一度、強く強くリュミエールを抱きしめたのだった。
 



おしまい 
 
 



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