セイランは深いため息をついた。
「……バレンタイン……ね。」
そしてその細い指でそっとその包みをつまみ上げる。
学芸館のセイランの部屋にある机に置いてあった包み。
差出人の名は、ない。
ただいかにも、と言う感じの包みとリボンでそれとわかるのみである。
「困るんだよね。」
そう呟くと、彼はその包みをそのまま机の端の方に放り出す。
まあどうせそのうち女王候補たちはやってくるはずだ。彼女らのどちらかだとすれば、これを見て反応するだろう。それを見てやろう、とセイランは思ったわけである。
しかし、夕方。
セイランはまた深いため息をつく。
今日はふたりともやって来た。そしてふたり一緒に学習して行った。
でもふたりとも、ちゃんと持ってきたのだ。
栗色の髪の女王候補はそれなりに気合いの入った怪しい「手作りチョコ」。
金髪の女王候補はいかにも「トレンディ(爆笑)なブランドものチョコ」。
じゃあ、これは誰からなんだ。
「……捨てた方が、いいのかも……」
セイランは再びそれをつまみ上げる。
そして机の横にあるくず入れのうえまで持って来て、リボンをつまんだままぷらぷらと揺すった。
「セイランさん!」
セイランはびっくりして思わず指を離してしまった。
「ああーーーー!ひ、酷いですよ、捨てるなんて!」
ノックもしないで勢いよく扉を開けて飛び込んできたのは風の守護聖さまだ。その線は全然考えていなかったセイランは本気でびっくりした。
「昨日どうしても仕事が終わらなくって、間に合わなかったんですよ。だからここの管理人さんに鍵開けてもらって置いておいたんです。……でも、ご迷惑だったんですね。」
言いたいだけ言って、風の守護聖さまは(x_x;)シュン、とした顔で俯いてしまった。
セイランは思わずぷっ、と吹き出した。
「あなただったんですか。これ。」
くず入れから三度その包みを拾い上げたセイランは笑いながらそう言った。
「……そうですよ。……あ、えと、お誕生日、おめでとうございます。」
憮然とした表情のまま、風の守護聖ランディはそう告げた。
「……誕生日?!」
「…そうですけど?」
「……そうか、そうだったんだ、アハハハ、なるほどね。」
「な、なにが可笑しいんですか、セイランさん!」
セイランはついにおなかを抱えて笑い出した。ランディはふくれっ面のままくるりときびすを返して部屋を出ようとした。
「ちょっと、待ってくださいよ、ランディさま。」
「…なんですか…?」
「ありがとうございます。」
にっこりと微笑むセイランの顔を見て、ランディが一気に機嫌を直したのは言うまでもない。
結局、包みの中から出てきた「友情」と書かれた温度計付きの置物に、再び腹を抱えて笑わぬわけにはいかなかったセイランではあるが、とりあえずそれは今でもセイランの机の引き出しの中にこっそりと飾られているのだった。

おしまい。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
バレンタインディと誕生日がくっついている人を好きになると、いろいろ面倒だなた、と思ったわけですが、何故かカップリングが(カップリング??)ランセイになってしまいました。
……キャラクター的にやりそうなのは彼だけだろうと思ったので(^^;
ところで、ご覧の通り桐谷さんがステキなカットを描いてくださいました。もちろん本人の了承を得て使わせていただいています。
ステキです、爆笑セイラン。……ありがとうございました!
|
|