ルビー 10


無駄な質問だということは、分かっていた。
「そういう」意味で、好きか嫌いかを答えることが、この青年は出来ないと知っていたから。
そして、そういう意味でないなら、答えは「嫌いではない」に決まっている。
嫌いな相手のそばにいるほど、体裁を気にするタチではないから。

だから、返ってくる言葉の検討はついていたのだ。
でもグラディウスは聞いた。尋ねた。
それは、何のためにだろう。
砂粒ほどの可能性にかけたか、それとも、尋ねることによって、
自分が相手を求めていることを、知ってほしかったからか。

グラディウスの言葉を聞いて、カルマは少し黙ってから、答えた。
「こんな性分で、不便を感じたことは今までなかったが、
今はじめて、お前に‘同じもの‘を返せない自分が、残念に思う。」

***

深読みしないなら、・・・いや、する必要など全くないのだが・・・
彼の言葉は、愛の告白に対する、‘YES‘という意味である。

(いや、待てよ。)

どうも疑り深くなっているらしいグラディウスは、ぶんぶんと
頭を振ってから、相手の言葉の意味をもう一度考えた。

お前に同じものを返せない自分が、残念に思う。

出来れば、お前と同じものをお前に返したい。

僕と、思いは同じ・・・・ってこと?
それでも、やはりグラディウスは信じられなくて、再度頭を振った。
うぬぼれているわけではないが、グラディウスは、カルマは、自分のことを信頼してくれている、とは思っている。
だが、直接的な愛を語るとなると、話は別で、やはり、拒絶されると思っていたのだ。

彼の肩に手をかけて、グラディウスは再度尋ねた。
「カルマ、ごめん。しつこく聞いていいかな。
あの・・・それはつまり、僕のことを好きだと言ってくれていると、
解釈してもいい・・・・・の?」
       「さぁ、どうだろうな」

即答するカルマ。それこそ、聞くだけ無駄だったかもしれない。
今までひとを好きになったことがない人間に、
「想い」が全く分からない男に、好きかどうかなんて尋ねても、しょうがないのだ。

どうだろうなと言われて困っているところに、
カルマは、自分の肩の上の相手の手に自分の手を重ねて、こう告げた。

「よく分からないが・・・もやもやした想いが、お前に対して、ある。
ただ、それが一般的にいう恋愛感情なのか、分からない。
だが、お前といると気持ちが和らぐし、こう・・・お前に触れられても、嫌ではない。
そして、お前がさっき告げた言葉を聞いて、わたしは、
‘嬉しい‘と感じた。」

「君が大切だ。」と。
「いっしょにいたい。」と。
「君を救いたい。」と。
「君の全てがほしい。」と。
そう、グラディウスは「説明」した。
愛の言葉といえるかどうか、分からないが。
そしてそれを、全てかどうかは不明だが、何割かを、カルマは受け取った。

非常に、「らしくある」2人のやりとりだ。
カルマは肩の上の相手の手を外させて、代わりに、自分が両手を前に出して、長身の青年に抱きついた。

「っ!??」

グラディウスの体は大きいので、もちろんカルマの腕は相手の体を全部まわらない。まるで子供が大人に抱きついて いるようだ。慌てている相手を無視して、カルマは顔を相手の胸にうずめて、つぶやいた。

「お前といると、何故こんなにも‘楽‘なんだろう。
自分が無くなってしまうようで、不安なんだ。
だから独りで立たなくては、と思って・・・。でも、
結局、お前に寄りかかっているんだな。

   お前は、わたしから、何が欲しい・・・?

***

何が欲しいと聞かれて、刹那考え、そして青年が出した答えは、こう。
「全て。」

その答えを聞いて、カルマは相手から体を離してから、相手を見上げて、つぶやく。
「ワガママを言うなよ。」
言いながら彼は、クスクス笑っている。
その様子を見て、グラディウスも微笑みながら、続けた。

「ワガママじゃないよ、本心を言っただけ。」

「勝手だな、お前は。」
赤い目の男は、ふぅとひとつ息をつく。

いつの間にかグラディウスも、相手が座っていた寝台に乗り上げていて、
同じ高さのものに腰掛けているのだから、やはり背の高いグラディウスの方が、 カルマの方を見下ろす形になる。

紅玉のような瞳が、自分を見ているのが分かる。
ねずみ色の髪の青年は、スゥと左手で相手の両目を覆って、
右手は相手の左頬にかけて、目の前の愛しい相手に口付けた。


すぐに顔を離してから、グラディウスは尋ねる。
「・・・嫌・・・だった?」
まばたきを数回しただけで、あまり顔色も変わっていないカルマは、こう答えた。
「だい、じょう、ぶ・・・。」

言葉が途切れ途切れになっていることから、外側からはそう見えなくても、彼は驚いているようだ。
驚いているのは、友にされた行為が、というより、そんなことをされても、動じなかった自分に、だろう。

やはり「彼」は特別なのだと、双方が思う。

急に、バンバンと相手の背中を叩いて、あははは、とグラディウスは笑う。
嬉しいから、笑ってるのだ。
ぎゅう、と割と小柄な彼を抱きしめて、肩に顔を乗せて、彼は言った。

「君がいて、良かった。本当に良かった。」

赤い目に黒い髪の、希少な外見のカルマは、その姿ゆえに、今まで苦労もあったのだろう。
そしてグラディウスは、他人に告げたことなどなかったが、
大柄すぎる自分の体が嫌で、天を恨んだこともあった。
だが今、グラディウスは思うことが出来るのだ。
(君は、鞘のない諸刃の剣だ。
周りを傷つけて、自分も傷ついて。
おさまるところがあれば良かったのに、それが
出来なかったから。

でも、もう大丈夫だよ。

僕はこの身体が、うっとおしくもあった。
だけど、気づいたんだ。

僕のこの身が、ひとより大きくるのは、
きっと君の、盾となるために。)
カルマ、カルマ、と大好きな相手の名を呼ぶ。
グラディウスの腕の中におさまっているその彼は、律儀に毎回返事をしていた。

「そばにいるから。そばにいてよ。」
            「あぁ、分かっている。」

他人が聞けば、軽い約束のような、その言葉。
それが、一番大切で、「全て」だと思った。
ねずみ色の髪の冒険者は、心の中で叫んだ。

「僕は、宝石を手に入れた。」

         <END>
 
               おまけ>>>

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