あなたのとりこ 2



オスカーが目覚めると、空はすっかり晴れ上がっていた。彼は東屋のテーブルの上に横たえられ、衣服はまだかなり濡れたまま、上着以外は元のように着せられている。
オスカーは痛む腰を押さえてその場で身を起こした。ジュリアスはすぐそばのベンチに腰をかけ、テーブルに凭れるようにして眠っている。
濡れた髪とシャツから透けた腕がとても艶っぽい。オスカーはごくりと息を飲んで、すぐ隣に腰を掛けた。そしてそっとジュリアスの耳朶にくちづける。
「ん……っ」
ジュリアスの長い金の睫毛が揺れ、そのサファイアの瞳が開く。
「オスカー。」
「ジュリアスさま、雨が止んでいます。」
「ん……?…ああ、そのようだな。」
「もう戻りましょう、お風邪を召します。」
「ん、そうだな。……そなた、馬には乗れそうか?」
オスカーはそう問われて真っ赤になる。確かにこの体で馬に跨るのは結構至難の技と思われる。口篭もるオスカーに、ジュリアスは言う。
「だが歩くのも余り楽ではなさそうだな。すまぬ。ではそなたは彼女に横座りで乗るがよい。私が馬を引いて歩く。ゆっくり歩けばそれほど辛くはないだろう。」
「……はい…、お願いします。」
オスカーは素直にジュリアスの提案に従った。


オスカーの邸で、二人はそれぞれシャワーを浴び、バスローブに着替えた。
温めたブランデーをゆっくり口に含みながら、オスカーはジュリアスをじっと見つめる。
「ジュリアスさま……」
「…なんだ?」
「先ほどは……少し…ジュリアスさまは強引に過ぎたように存じます。」
「ん……?…そ、そうであったか?」
ジュリアスが僅かにたじろぐ。やはり少しは後ろめたさがあるようだ。
「やはり、ジュリアスさまはあちらの痛みをご存知ないですからね。」
「……そ、そんなに、痛むのか?」
「痛みます。」
「私は……気をつけてやっているのだが…」
「気をつけても痛いものは、痛いです。」
「それは……すまぬ。」
「それにやはり先ほどは、いささか乱暴なやり方かと。」
「うむ、確かにそうであったかも知れぬ。久方ぶりであったので、つい…な。まことにすまぬことをした。許して欲しい。」
「いいえ。毎回こうでは、体が持ちません。一度ジュリアスさまもうしろを経験なされば、加減というものがおわかりになるかと存じます」
「オ、オスカー、そなた、私に…?」
「厭だとおっしゃるなら、もう抱かれて差し上げません。」
そういわれて、ジュリアスはぐっと詰まった。オスカーを抱けなくなる。それは厭だ。
「いかがなさいますか?ジュリアスさま。」
ジュリアスは、がっくりとうなだれる。
「………承知した。」
「ありがとうございます!」
そう、言うが早いか、オスカーはジュリアスに飛びつくようにして口づけた。そして毛足の長い絨毯の上にジュリアスを押し倒すと、バスローブの中に手を差し入れ、胸のあたりを撫でまわす。
「し…寝台で…んっ……オスカ…っ…んん…」
「だめです、さっき、あんなところでは厭だといったのに、ジュリアスさまは聞き入れてくださらなかった…だから、俺も……」
そこまで言うと、オスカーは、ジュリアスのバスローブを押し広げ、胸元に顔を埋める。
そして、胸の突起を、舌で音が出るほど舐めまわす。
「あ、あああっ、オ…オスカーっ!」
オスカーは構わず舌を動かしながら、ジュリアスの右足を担ぎ上げた。そして、以前挿入を諦めたうしろの蕾に、意を決してそっと触れてみた。
「ひぁっ!」
オスカーはテーブルの上のグラスから先ほどまで飲んでいたブランデーのグラスを取り、その中にたっぷりと指を浸す。そしてその指をゆっくりと、ジュリアスに挿入しようとした。度数の高いアルコールが、その部分に熱い刺激となって襲い掛かる。
「ふ……っ、ア…ァ……っ」
ジュリアスも先ほどまでそのブランデーを飲んでいた。もう、それなりに酔いが回っている。その酔いは、適度の媚薬のように、ジュリアスの官能を高めて行く。
くちゅ……っ、とその入り口あたりでオスカーの指が湿った音を立てた。
オスカーは何度もブランデーに指を浸し、ジュリアスの蕾の周りや、中の肉襞にそれを塗りつけるようにしている。
「ああ……あ……っ…オ……スカー…あ……熱……っ…」
ジュリアスは、蕩けるように潤んだ瞳をしてオスカーを見た。酔いが回っている所為なのか、あまり抵抗もしないようだ。
「ジュリアスさま……」
オスカーはそっとジュリアスのローブの前を掻き分け、漸くジュリアスのその熱く燃えるものに手を触れた。ジュリアスの体がびくんと弓なりにしなった。
「ひぅ……っ」
ジュリアスの白い肌の大部分がピンク色に染まって、ものすごく色っぽい、とオスカーは思った。ジュリアスの足を担ぎ上げたまま、ジュリアス自身をその大きな手と長い指で丹念に扱きながら、オスカーはそっとそのピンクの蕾を押し広げた。
「う……、は…あっ…んっ……」
「挿れますよ……、ジュリアスさま…」
オスカーは、ゆっくりとジュリアスにその楔を打ち込む。
「う……ふァ……んんん……あ、ああ……っ…く……っ」
ジュリアスの顔が苦痛にゆがむ。食いしばった歯の隙間から唾液が雫となって流れ出る。
オスカーはジュリアスを抱えるとゆっくりと上下に揺さぶった。ジュリアスの苦しそうな声が徐々に官能を帯びた喘ぎ声になってくるのを感じながら、オスカーも非常に熱を持ったジュリアスの中で、更に熱く大きくなって行く。
「オスカー……っ、も…もうっ……」
「もう、なんですか……?」
「も……イ…く……っ…あ…ッ!?」
ジュリアスの放出しかけた熱が、いきなり堰き止められた。ジュリアスは苦しい息の下からオスカーを見る。オスカーは案の定、意地悪そうな笑いを浮かべている。
「だめですよ。イかせません。……俺は…っ……」
オスカーは力を込めジュリアスごと激しく体を揺らした。
「ひっ、あ、ああ、やめ……やっ……オス…カーっ……やっ……あ…」
「俺は、あなたが俺の腕の中で悶え狂うさまを、一度でいいから見たい…っ」
そう言いながらオスカーは、テーブルの上にジュリアスの髪を縛っていた細い紐を見つけ、とっさにそれを取ると、ジュリアスのその根元をそれなりに強く括った。
そして、思うさまジュリアスの中をおのれの楔で突きまくった。
ジュリアスはいつしかオスカーの体に両足を回し、しがみついて泣き叫んでいた。
「いや……やぁ…っ…オスカー…っ、オスカー、オスカーっ!」
どれだけそうしていたのか。ずいぶん長い時が経ったようにも、ほんの一瞬だったようにも感じる。自分の限界を感じ、オスカーはジュリアスを縛った紐に手を掛ける。
「あ……んん……や…ぁっ……ああ…イかせ…あ……ぁ、イかせて…オス…カー…」
いつしか、ジュリアスは消え入りそうな声でそう呟いていた。涙に濡れた青い瞳は、既に虚ろを見ている。こちらももう限界だろう。
「……わかりました…イかせて……差し上げます…っ、ジュリアス、さま……っ」
オスカーは、最奥まで突き入れると、その根元の縛めを解く。
「ひっ……ぁ……っ……う…」
ジュリアスは消え入りそうな呻き声を上げて達した。オスカーも続けてジュリアスの中で達する。二人の体が、繋がったまま大きく痙攣した。
「ジュリアス……さまっ……」
見ると、既にジュリアスの意識はない。オスカーは、急にジュリアスにすまない気持ちでいっぱいになった。しかし同時に、あのジュリアスを征服した喜びも確かに感じたのである。そしてぐったりしたジュリアスを抱きしめたまま呟く。
「……ヤバいな……癖になっちまいそうだ……」