シアワセノカタチ。2




数分の奮闘の結果、やっと暖炉に赤い火が灯った。ぱちぱちと言う薪の燃える音と温かい炎の気配がオスカーの緊張を少し和らげる。
ジュリアスは毛布を取ってオスカーに渡した。
「さあ、服を脱いでこれに包まれ。男同士だ。遠慮はあるまい。」
「は、はい……。」
オスカーは観念して少しジュリアスから離れ、後ろを向いて服を脱ぎ始めた。
「下履き一枚残して、すべて脱ぐのだぞ。それからこのテーブルの上に、中のものから順に干して乾かしていけばよい。マントなどはその隅の、壁に出ている釘にでも掛けて置け。とりあえずは下着が先だ。」
オスカーは素直に言われたとおりにして、下着とズボンを持つとそおっと振り返った。
ジュリアスはすでに毛布に包まって、テーブルの上に半分掛けるようにして裾の長い下着を干している。毛布の下から見える白い素足に、オスカーは少しドキッとした。
「失礼します。」
そういうとオスカーは残されているテーブルのスペースに自分の下着を掛ける。
ジュリアスはもう毛布に包まったまま火のそばに座り込んでいた。オスカーはそれに習って、自分も火のそばに座る。
「暖かいですね。」
「うむ……さすがはそなたの属性だな。実は今まで私もだいぶ心細かったのだがな…、この火にあたっていたら、ずいぶん心強くなって来たようだ。ふふ…」
そう言ったジュリアスをオスカーは見つめた。白く冷え切っていた頬が炎を受けて少し赤く染まっている。オスカーはそれを美しい、と思った。



「ジュリアスさま、あなたが好きです。……愛しています。」
オスカーは思わずそう言った。なぜか言ってしまいたい気分になっていた。なぜか、今言ったらジュリアスは受け入れてくれるのではないか…と、そう思ったのだ。
ジュリアスはオスカーを見た。少しだけ目を見開いてはいるが、それほど意外そうな表情はしていなかった。そして言う。
「そうか。私もそなたを愛しいと思うぞ。」
ジュリアスは静かに微笑んでオスカーをじっと見つめている。オスカーは信じられなかった。ジュリアスさまも……俺のことを……??
「この星で、雪の中に放り出されて、この小屋が見つかるまでの間、私は密かに死を覚悟した。……その時、そなたが傍にいてくれたことに心から感謝した……そして気付いたのだ。私がそなたを本心から愛しいと思っていることに。」
「ジュリアスさま……」
呆然とするオスカーにジュリアスは少しにじり寄りながら言う。
「そなたは……男と抱き合うのは嫌か?」
ジュリアスさまが……ご自分から……?俺に抱かれると…?オスカーはあせりながらも、力強く首を横に振った。
「そうか……そなたは女性との経験は豊富のようだから、逆を望むのは酷かと思っていたのだ。……ああ、もちろん私も初めてだが、な……初めての相手が男と言うのもどうかと思ったが、気持ちに嘘はつけぬ。そなたと二人きりのこの場所では、私も自分の心に素直でいたいと思ったのだ…。こんな私を可笑しいと思うか?」
オスカーはジュリアスの言葉に何か違和感を感じたが構わず首を振って言った。
「ジュリアスさま……俺も何度、あなたと肌をあわせることを夢に見たか……。俺は嬉しいです。こんなことが現実に起きるなんて、夢のよう…っ…んん……」
オスカーの言葉はジュリアスのくちづけによって遮られた。オスカーももちろんそれに応え、二人はお互いの舌を貪り合いつつ、長いくちづけを交わす。
「ああ……」
くちづけが終わるとジュリアスは、その長い指をオスカーの肌に這わせ、首筋に、肩にと、無数のくちづけの雨を降らせる。
オスカーはそれを体中で感じながらふと思う。
変だ。これでは俺のほうが抱かれているようではないか。
「ジュ……っ…ジュリアスさまっ……」
「どうした……?」
「あの……ジュリアスさまが…俺を…あっ……抱くんですか…っ?」
ジュリアスはもう胸に達していたくちづけから顔を上げ、怪訝そうに言う。
「当然ではないか。……私がそなたを愛しく思うのだ。そしてそなたは私に平素より…尽くしてくれているではないか。私がそなたを抱くのが当然であろう。遠慮などすることはない。そなたを喜ばせるのが私の務めだ。」

つまり、俺が『受』だと言うことか。??
マジですか〜〜〜っ!!!???
オスカーは心の中でそう叫んだ。そして思う。

ジュリアスのさまの頭の中にはステロタイプの考えがあるのだ。妻(役)は夫(役)に尽くす代わりに愛と性的な喜びを受け取ると言う。男と女……いや、人と人の性的な行為に対して、生真面目なジュリアスさまはそう考えることしか出来ない。
そしていつもジュリアスさまのために一生懸命尽くしてきた俺は……そういえば女房役、と言う言葉があるが……俺は妻で、ジュリアスさまが夫なのだ……。
だから、ジュリアスさまが俺を愛しい妻として抱くことはジュリアスさまにとっては絶対不変のことなのだ。……俺が逆らえる立場でないことも……。



そう思っているうちにもジュリアスの指や唇がオスカーの体を這い回る。
「あ……っ、はぁっ…」
うなじから始まって、耳朶、鎖骨のあたりやら、背中、脇腹、乳首やその下……ジュリアスは初めてだと言ったが、何でこんな……。オスカーはめちゃくちゃに感じていた。抱きたいと思っていた美しいあの方に、まるで女性のように抱かれている。そんな倒錯した気分がオスカーの快感をより高めているのかもしれない。
「く…っ!」
ついにジュリアスの指が、ためらいがちに下履きの上からオスカーの最も大切な部分に触れてきた。オスカーの体は思わずびくっと震えた。
「厭か?」
ジュリアスが心配そうな顔と声で訊いてきた。
「い……いいえ……っ…あの、き…気持ちいいです…っ」
「そうか……!」
嬉しそうな声だった。ジュリアスは彼なりに一生懸命オスカーを愛しているつもりなのだ。オスカーはジュリアスのそんな気持ちがとても嬉しく、思わず感動した。
「直接……触ってもよい…な?」
オスカーはごくりと息を飲み、小さく頷いた。ジュリアスの手がおずおずと、オスカーのきつめの下着の中に伸ばされる。
「くぅっ!」
とんでもなく感じる。女性に触られたことも何度となくあるが、こんなに感じるのは初めてだ。これはやはりこのシチュエーションが……。
「ひあっ!」
思わず大声を出してしまった。ジュリアスの指が、最も感じやすい先の方を刺激してきたからだ。
「下履きを取っても、良いか…?」
「あ……あ…っ、ど……どのようにも…っ」
ジュリアスの指はそう訊きながらもオスカーのそれの上を這いまわっている。
いつのまにか床の上に拡がった毛布の上に押し倒されたオスカーの下着を、ジュリアスは片手で(もう片手は塞がっているので)必死に取って、足から抜き取った。それからおもむろにオスカーの上に覆い被さり、くちづけをする。
大事な部分を思うさま刺激されながら口腔を侵されては、もう堪ったものではない。
「んっ!んんん、ふっ……んん……んぅ……」
オスカーの体は恥ずかしいほど反応する。もうオスカーのそれの先からは透明な蜜が溢れている。ジュリアスのくちづけが再び耳朶やうなじに移る。オスカーの開放された口からは、こらえてもこらえてもジュリアスの名と大きく喘ぐ声が止まらない。
「あ、ああ……ジュリアスさまっ……はぁ……ぁっ…も……ぉ……あ…あッ!!」
そしてオスカーの体が大きく震えた。ジュリアスの手の中に熱いものが溢れる。
「ひ、あ……っ…あぁ……」
オスカーの体は固い床を鳴らしながらがくがくと痙攣した。
「ああ……ジュリアスさま……」
いつのまにかオスカーの目からはとめどなく涙が溢れ出している。
「オスカー、愛している。」
愛している……ジュリアスは確かにそう言った。オスカーは夢でもいいと思った。ずっと恋焦がれていたジュリアスとこうして愛し合う。こんな幸せなことはない。
もうどちらが攻でも受でも、そんなことはどうでもいい。どうでも……。