ジョバンニのその言葉を皮切りに、それから起きたことを、セイランはあまり詳しく覚えていない。
ナイフやロープや、鞭で体中を責められたり、その間にも絶えず、口やアヌスにペニスや、もっと硬いものなどが挿入されていた気がするがほとんど意識が混濁していて記憶が定かでないのだ。
セイランはその間にも何度か射精したようだ。だが、もう快感など一切感じなかった。ただ感情を通さない体の反応だけだ。今まで、自分は確かにマゾヒストの傾向があることは自覚していた。だが、そのとき朦朧とした意識の中で感じていたのは、同じサディスティックな行為であっても、リュミエールの行為と、この偽守護聖たちの行為には決定的な違いがある、ということであった。
それは……。


そう思っているうちに胸に鋭い痛みが走り、喉に生暖かいものがこみ上げてきて溢れた。
「ひあッ、あ、リュ…ミ……」
そして息が出来なくなった。それで全部である。


「思い出したよ……。で、僕はどうなったのかい?もう死んだのかと思ったけど、生きてるみたいだね。」
「う、うん。ぼ…くが、生き返らせたから…。」
セイランはギョッとした。今までも蘇生薬とか、蘇生術とかは聞いていたが、それは酷いダメージを回復するものであって、本当に死んだものを生き返らせるのではないと認識している。
だが、僕は本当に生き返った…いや、本当に一度でも、死んだ…殺されたって言うのか?あいつらに?
「あ、あの…、あなたはね、人質なんだ。だから、本当はあなたのこと大事にしなきゃいけないのに、こ、こんなことして、ごめん…なさい。」
「……人質って、なんのだい?」
「あ、あの、あなたたちの、女王をね、助けに行かないようにって。行ったらあなたを、こ、殺すって…」
「なんだって?……むちゃくちゃだ、それは。
だいたい君たち、馬鹿じゃないのかい?僕一人いなくなったって、宇宙にはなんの影響もないんだよ。女王陛下の命と僕の命じゃ、比べようもないじゃないか。
ああ、君が騙されているんだよ。彼らは僕の体が欲しかっただけだ。
ああそうか、君も本物のルヴァさまみたいにお人よしなんだね。しかもまだ子供だ。そうだろ?」
「う、うん。そうだけど…。」
そのとき、がちゃりと音がして、部屋の扉が開き一人の男が入って来た。
少し段の入った長い金髪を無造作に後ろで縛っている。
「もういいぞ、ルノー。後は俺に任せろ。」
低い声。だが聞き覚えのある……。
(……そうか、オリヴィエさまか。多分そうだろうと思っていたけど、化粧なんてしなくたって綺麗じゃないか。……って言っても、これじゃちょっと怖すぎるけどね。)
「カ、カーフェイ…あ、あの」
「もういいと言ってるんだルノー。あっちへ行け。」
「あ、あの、あまり乱暴に…し、しないでね。」
「うるさい、おまえは言われたとおりにしろ。」
まったく、またヤバそうなのが来た、と、セイランがため息をつくひまもなく、その男はセイランの胸倉をつかんでベッドから引きずり出した。
「ふふん。細い体だな、簡単に折れちまいそうだ。」
「そう思うなら、手荒なまねは止してほしいな。」
「黙れ。おまえに厭と言う権利はない。」
そう言うとカーフェイはセイランの体をそのまま吊り上げ、体を覆っていたガウンだけ掴んで、中身であるその裸体を床に落とした。
「あうっ!」
まだ蘇生したばかりのはずのセイランは傷も癒えていない。たたきつけられる格好になって、あまりの痛みに気が遠くなる。
「ふん。おまえ、マゾなんだって?」
セイランは既にほとんど意識がない。だがそんなことお構いなしに、カーフェイはまだ縄目も痛々しいセイランの白い喉に手を掛け、軽く絞めた。くっと喉を鳴らし、セイランの頭ががくりと仰け反る。
カーフェイは構わず中に押し挿った。
「ふん。何だ、もう目ェ回してるのか。」
カーフェイはそう言いながら、もう完全に意識を失ったその体に激しく出入りする。そして、さらにその喉を強く絞め、びくびくと痙攣する体の中にその欲望を注ぎ込んだ。
カーフェイが部屋を出るとルノーが扉の横でぶるぶる震えながら待っていた。
「ふん。おまえの仕事をやるんなら、やりな。たぶん、息してないからな。」
ルノーは慌てて部屋に駆けこんで行った。


セイランが次に目を開けると、ルノーがぼろぼろ涙をこぼしていた。
「ご、ごめんなさい。みんな、ほんとに……」
「きみの……せいじゃ…ないさ……」
そう言いながら、セイランはもう、心身ともに疲弊しきっていた。
まさに、慰み物だ。生贄か、いや、実験動物だろうか。何で自分がこんな目に遭わなければならないのだ…。
「リュミ…エ…ルさま、助けて…」
セイランは小さな声でそう言って、顔も覆わずに泣いた。
リュミエールに抱かれたい。
リュミエールの腕の中で眠りたい。
心から、そう思った。


気がつくと、セイランは誰かに抱えられていた。
「あ……だれっ…?」
答えはない。
セイランは目を凝らした。…凝らしたつもりだが、なにも見えない。いや、なにか人影らしいものが自分を抱えているのがわかるが、顔の造作が見えない。
黒い髪。長くはない。あとは、黒い影。
「だれ……?」
「黙っていろ。」
声は……聞き覚えのあるような、ないような…押し殺したような声。
「うっ…ん…」
セイランの中に、指らしいものが挿入って来る。
「あ、……いや、やめて…」
もうぼろ雑巾にでもなったような気分。これ以上玩ばれるのはいやだ。だが、それは容赦なくセイランの内壁をまさぐって行く。
「いやぁ……っ」
「入れるぞ。」
その言葉通り、セイランの中にその男のものが挿入って来た。
「あ、ああっ」
もう、痺れたような感覚しかない。いいのか、悪いのかもわからない。鈍い痛みと、むず痒いような感覚だけが這い登ってくる。
「ああ…もう、許してっ……」
いくら目を凝らしても、相手の顔が見えない。部屋が明るいことしかわからない。
(もう、僕は、ここで死ぬまでこうやって玩具にされるんだ。
いや、死んでもまた生き返らされる…そんなの…それじゃまるで地獄じゃないか。)
「リュ…ミ……っ」
セイランはそのまま、また意識を失った。
続く

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