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「セイラン」
「息はあるな。だが、可哀想に、傷だらけだ。…酷い真似をする…」
「セイラン、聞こえますか?しっかりしてください。」
(だれかがまた僕を揺さぶっている。もう、やめてくれ。僕を放っておいて…)
「構わない。もう連れて帰ってくれ。あいつらのおかしな趣味にはほとほと嫌気が差しているのだ。この子に言って、おまえたちの仲間のいる場所まで移動させればいい。
ショナ、頼んでいいか。責任は私が取る。」
「いいよ…、カイン。もう、ルノーも限界だしね。」
(ついにクラヴィスさまと、ゼフェルさまの偽者も出て来たのか。これで全員集合だな。
さっき、一人だけ、よくわからない人がいたけど。へえ、今度はずいぶん優しく抱くんだな。で、何をするの?……もう、どうでもいいや。)
「セイラン、セイラン?」
「眠らせておけ、リュミエール。かなり弱っているのだ。早く皆のところに戻って治療した方が良い。」
「はい、ジュリアスさま。」
(リュミ……エール、だって?)
セイランは目を開けた。相変わらずなにが見えているのかわからないが、微かに、懐かしい匂いがした。
(僕の、帰りたかった場所の匂い。温かい。あの人の、腕の中だ。)
「リュミ……エ…ル…さま?」
「セイラン、気がついたのですか?」
「よかった、セイラン。もう安心して良いぞ。無理をせず、眠っていろ。」
目がよく見えなくともわかる、豪華な金の髪。
(ジュリアスさまだ。あいつとは、全然違う。この人の声を聞いてこんなに嬉しいなんてね。おっかしいの…。)
「ふふ…」
セイランは思わず笑みをもらしていた。
「さあ、早くしないと他の者が戻ってくる。頼むぞ、ショナ。」
「わかった。あなたたち、ここに集まって。」
ショナが小さな道具のようなものを持ち出した。
「リュ…ミ、エル…さま?」
「セイラン、大丈夫ですよ、おやすみなさい?」
「抱…いて……?」
「セ、セイラン……っ」
さすがのリュミエールもこの場所では赤くならざるを得ない。
「待て、セイラン。しばらく眠っているが良い。」
ジュリアスがセイランの顔に触れ、何かを呟くと、セイランはすうっ、と吸い込まれるように眠った。
「ジュリアスさま…っ」
「細かいことはあとだ。早くセイランを連れて行かなくてはならぬ。」
「は、はい。」
ショナが呼ぶ。
「行くよ…。用意はいいね。」
最後に、カインとジュリアスが向き合った。
「それでは、またお逢いする日まで。」
「あまり逢いたくはないがな。」
「転送。」
そして、セイランは解放された。
「リュ…ミ…エ…ル、さま?」
セイランの手が頼りなく宙をさまよう。
「セイラン。わたくしはここにおりますよ。」
リュミエールはその手を取って、手のひらに軽くくちづけた。
「あっ…あぁ」
セイランはたったそれだけでそんな声を出す。
「私は邪魔のようだな。外に出ていよう。」
「あっ、あのっ、ジュリアスさま…っ」
「……構わぬぞ。私にその性癖はないが、人を想う気持ちに男も女もあるまい。……それに、その…性欲…も、ある程度は仕方のないことだ。ところ構わずと言うのでは困るがな。だが、セイランは弱っている。程々にするのだぞ。」
「は、はい。ありがとうございます。」
「ここに戻って来れば、いろいろな癒しの手立てがある。じきに良くなるだろう。……それまでは、……その、……れるのは、…やめておけ…ι…よいな。」
「…?…!、はい…ι」
「では。」
「リュミ…エール…さま?」
「はい、セイラン?」
「ふふふ、変…なの。リュミ…エール…さま、ほんとうに…やさしい。」
「セイラン…。」
「ふふ、おこった…の?」
「怒ったりしませんよ。」
「なんだ、…おこらせ…ようと思った、のに…」
「ふふ。」
「…キス…して?」
リュミエールはそっとセイランの唇を捕らえた。
セイランの飢えた舌がリュミエールの唇を割ってはいって来て、その甘い舌を一心に貪る。
「んっ、ふ……んんんっ」
リュミエールの手がセイランの体を滑り、胸の突起から、ずっと下の熱い芯のほうに移る。
「あ、ああっ…ん、リュミ…エ…ル、さまっ…い、い…いい、もっと……あ、あっ、」
セイランの美しい顔が快感と苦痛に歪む。閉じたまぶたの隙間から、大粒の涙がぼろぼろと零れ落ちた。
「可哀想に、セイラン…こんなにされて…辛かったでしょう?」
リュミエールは、セイランのその体中に散らばる痕をやさしく舐めた。
「ひっ、はああっ、リュミ…、あ、う、ふっ、んん…」
セイランは傷に障るのか、辛そうに身を捩る。
「セイラン、大丈夫ですか?辛ければ、やめましょうか?」
「いや、や…めないで…っ、もっと…、あ、あ…っ」
リュミエールはセイランの燃える芯を掴むと、その長い指で、大きく扱いた。
「ひ、ああ――っ」
セイランは体を大きく震わせ、僅かばかりの精を放ち、力尽きた。
「愛していますよ、セイラン。」
ぐったりとしたセイランの体をやさしく抱きかかえ、リュミエールは呟く。
「セイランは、どうだ?」
「ジュリアスさま…。先ほど…その、…眠りました。」
「うむ……。リュミエール……どうして、今回は私がこれほど、セイランにこだわったのか、わかるか?」
「……いいえ?」
「……私は…あのものどもが何をするか、知っていたのだ。」
「ジュリアスさま……」
「私が以前、賊に入られ、陛下を庇って大怪我をした、ということがあったな。」
「はい。」
「あれは、本当のことではない。」
「えっ?」
「私の姿を借りた、偽守護聖。…あの男に陛下ともども拉致されて、…陛下は無事であったが、私は暴行を……いや、あの男に……」
「……まさか、セイランのような目に遭ったとおっしゃるのですか?」
「…そうだ。あの男に無理やり……それで、…ひどく出血したのだ。それで、しばらく伏せってしまった。…これは、陛下しか知らぬことだ。」
「……そう…だったのですか…」
「だから、セイランも恐らくひどい目に遭うだろうと思ったのだ。……もっと早く居場所がわかっていれば、あのような……酷いことには…」
「ジュリアスさまのせいではありません。クラヴィスさまや、メルが、あれだけがんばって、やっと見つけることが出来たのですから。」
「……早く…陛下をお救いしたい…。陛下に、もし…あのような事があったら…私は…おそらく、正気ではいられまい…」
「ジュリアスさま……」
「……いや、陛下は大丈夫だ。いくら『皇帝』と言えども、あの方にそう簡単に手を出すことは出来まい。………きっと…大丈夫…だ…。」
「ジュリアスさま……」
自分に言い聞かせるように呟くジュリアスを、リュミエールはただ見つめるしか出来なかった。
ジュリアスは寂しく微笑んで、また部屋を出ていった。
続く